第十二章① こんにちは故郷
ドルドネからポートまでは、意外なほど近かった。なんと、明後日の午後にはポートに到着するらしい。
こんな近い場所で、いったい俺は何をしていたのか。もちろん島にいた時は脱出できるなんて思っていなかったけど、あまりに近くて笑っちゃったね。もちろんポート国籍の高速船だから、飛びぬけて速く行けるっていうのもあるけど。
ホーシー一団の現状を見て、迎えに来た船員たちは絶句した。船長まで動員して病人を船に運び、さっさとドルドネから出航してしまった。俺らよりも、応援の船員たちがパニックを起こす始末。そのせいで、俺が増えたこともサザムが減ったことも、出航後しばらく経ってから気づいたほどだった。
そうそう。サザムの奴、いつの間にか消えてたんだ。船が来る少し前にはちゃんと眠っていたのに。原住民が交代で見張りをしていたが、見張りをボコボコにして消えていた。
見張り番がいうには、ふと意識を失って、気づいたら倒れていたらしい。幸い見張りをしていた奴は軽症だったので、原住民に治療を任せられた。
だが、いったいどうやってサザムが逃げ出したのか、どこに消えたのか、わからずじまいだった。
かなり強力な眠り薬を作ったのに、サザムには効かなかったのだろうか。ルルの推察では「呪術を使う者だから、一般人以上に魔力が効きにくい」らしい。だから俺の想定よりも早く解けたのではという結論に至った。
よくわからんが、サザムは本当に厄介な奴だ。前の戦いで土を蛇のように扱っていたが、思えば通常より発動が早かった。いつから詠唱していたのかと思ったが、奴を捕縛した時に俺は見た。腕にびっしりと描かれた術式の刺青を。
腕から肩、背中にかけての巨大刺青は、数日で彫れる量じゃない。緻密な術式なので、爪ほどの大きさでもかなり時間がかかっただろう。奴隷商人といた時にはなかったと思う。もしあったなら、もっと楽に俺をぶちのめしていたからだ。
前回俺と別れた後に入れたというなら、よほど無理したはずだ。尋常じゃない痛みに耐えねばならない。改めて、サザムの執念が窺われた。
そしてもっと恐ろしいのが、その術式が、術者の神経回路を弄るというもの。魔力に変換された想念が通る経路を大幅に繋ぎ直し、呪術の発動を早めているのだ。
この術式があれば、大幅に術の発動スピードを速められる。しかし、そんなことをすれば、膨大な魔力が体内を縦横無尽に走り回り、不必要に身体を痛めつける。簡単な呪術を使うだけで、相当な痛みが生じるはずだ。そこまでするのかと俺は愕然とした。
この状態のサザムを、見過ごすわけにはいかない。奴を野放しにしても、決していいことにはならないだろう。
だから俺は、サザムの背中の術式に、一本線を書き足してやった。つまり、緻密な術式を壊してやったんだ! あんな量の術式なら、どこが欠損してるか見つけるだけでも一苦労。しかも身体に彫り込んだから、見つけたとしても修復不可さ。
鬼みたいな所業だけど、これであの術式は役立たずだ。ざまあみろ!
× × ×
サザムのいない航海は、順調そのものだった。これまでのことを思い返しながら船に揺られ、早一日。昼食後にデッキから海を見ていると、地平線上に薄っすらと陸地が見えてきた。
どんどん近づき、肉眼でも見える距離まで迫っていた。途中、船員に聞いたら、このまま海岸線沿いに北上し、ポートを目指すらしい。
陸地が見えるほどに、俺は動悸を覚えた。胸がざわめくというか、不安に襲われるというか。なんだか落ち着かない。でもその原因はわからずにいた。
そして陸地の全容がわかった時、俺は直感した。ここが初代の出身地だと。
俺はすぐさま船員を捕まえた。
「あの、あそこの港には寄らないのか?」
「寄りませんよ。たった三日の日程ですし」
船員は面倒くさそうに答えた。
「昼寝でもしたらどうです。すぐポートに着きますよ」
だがここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
冷静に考えれば、ポートに行ってから、再度故郷を訪れればいいとわかる。でもこの時の俺は、次なんて考えられなかった。まるで誘蛾灯に誘われる羽虫のごとく、どうしても今行かねばならないという使命感に燃えていたのだ。
俺は部屋へ戻ると、荷造りをした。
「何をする気だ?」
一連のやり取りを聞いていたルルが、不安そうに尋ねた。
「あいつの真似だよ」




