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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第十一章② 呪術師サザムとの対決!

 闇の侘しさや不安感が募るため、夜は特に負の想念を増幅させる。少しでもサザムの有利になる状況は避けたかった。

 今夜はじっくり休み、翌朝になったら洞穴で待機。サザムがやってきたら、奴を丸一日拘束する。粉の使用頻度はわからないが、朝夕に訪れることから、最大でも二十四時間拘束すれば呪術は解けるだろう。

 無駄に戦わず、戦力を削いだり戦闘不能にした方がいい。ルルとも話し合い、勝つのではなく「負けない方法」を考え抜いた。


 翌朝。日の出と共に俺一人で洞穴へ向かった。危険が及ばないよう、ホーシー一団たちとは別行動。ルルも置いてきた。

 ルルは俺の魔力を受信できるので、テレパシーでメッセージが送れる。いざという時に逃げろと指示できるし、はぐれても後で合流できるというわけだ。魔法薬と剣だけ持って、俺は戦場へと向かった。



 幸い、洞穴には見張りもサザムもいなかった。たった一日見ないだけで、バンクスはひどく憔悴していた。先日まで真っ赤だった皮膚は、腐ってどす黒い紫色に変色していた。


「今日はもうサザムが来たか?」

「ま………だ」

 かすれるような声で、バンクスはなんとか答えた。


「とりあえずこれを飲んでくれ」

 俺はバンクスの口の中に薬を押し込んだ。本当は水を飲ませてやりたいが、もはや飲み込む力もない。


 幸いにも粉末の魔法薬だったので、唾液とともに飲み込むことができた。魔法で効果が出る時間を早めているが、飲んだ瞬間に効くわけではない。しかしバンクスの痛みは和らいだようで、俺に力なく笑ってみせた。

「あ………ぃがと………」


 血の涙を流す彼を見て、俺の方が泣きたくなった。

 でも泣いている暇はない。すぐさま俺は洞穴の奥にある人の山に隠れ、サザムが来るのを待った。



 言い忘れていたが、バンクスたちに触っても呪術は感染しない。基本的に呪術は、術者から直接施さない限り発動しないからだ。それにもし感染するタイプの呪術だとしても、俺は魔力の膜を張っている。魔力の強さは俺の方が何倍も上だから、その点は心配いらない。

 ただ肉体が崩れた状態の人に触ったり近くにいるのは、失礼だとわかっていても気分が悪い。十数人分の腐臭も凄まじいものだ。どうしても生理的嫌悪を感じるのは許してほしい。

 心地いい気持ちではなかったが、思いのほか山の後ろにスペースがあった。だから俺はなるべく肉体に触れることなく、楽々と隠れられた。



 長期戦を覚悟したが、サザムは思いのほかすぐにやってきた。一度中を観察した後、洞穴の外で薬を調合しはじめた。きっと鮮度が必要な薬なのだろう。それとも術の進行具合を見て調合を変えているのか。

 調合が終わったサザムは洞穴に入り、一人ずつ状態を観察した。そして一人ずつ分量を変えて、粉を振りかけていった。


 俺は飛び出してすぐにでもとっ捕まえたかったが、ここは我慢。確実に奴を仕留められるタイミングを待った。


 座る人たちへの散布を終え、サザムが奥にやってきた。人の山を前にした時、粉袋へ手を突っ込んだ瞬間、俺はありったけの魔力をぶつけた。

 計画では、俺の魔力でサザムの身体を乗っ取り、金縛り状態にするはずだった。しかし奴は全身から魔力を放出して防いだ。初動は失敗したのである。


「セコイことしてないで、外に出ろよ」

 隠れている俺にサザムが言った。

「ここだと狭くて臭し、踏んづけちまうだろ。まあ、俺はこいつらが痛めつけられる分には歓迎だけど」


 俺は姿を見せた。サザムが顎で外を示したので、大人しく洞穴から出た。



 洞穴前はちょっとした開けた空間があり、近くに池が広がっている。戦いに使える場だった。


「どうした、間抜けな顔をして」とサザム。「自分の攻撃が上手くいかなかったから拗ねてるのか?」

「そうだな。お前のこと、過小評価してたよ」

 俺は思った通りに答えた。実際よく防げたと思う。


「魔力が読めるのはお前だけだと思うなよ。といっても、俺はここで魔力を感じるんだがね」

 サザムは自分の鼻をちょいちょいと触った。

「臭うんだよ、魔力特有のツンと澄ました臭いが。これほど強い臭いを嗅いだのは、この島に来てからお前しかいない。それに一昨日来た時も臭いが残ってたしな。来るのはわかってたさ」

 サザムはヘラヘラと笑っていた。この展開が本当に面白いと言わんばかりだ。


「一つだけ教えてくれ」と俺。「お前の目的は何だ。いったい何がしたい?」

「何だろうね。お前には教えてやらねーよ」

 ケラケラ笑っているサザムの指は、不自然に動いている。奴の周囲に膨大な想念が集まり、魔力へと変換されていく。

 サザムは何か術式を発動しようとしているんだ。その時間稼ぎとして、俺との話を長引かせている。


 そんな思惑に、俺が気づかないわけがない。だが、あえて俺は話を合わせた。勝負は一瞬。その隙がいつ生まれるか、俺は注意深く奴を見ていた。



 中身のないお喋りを続けたサザムだが、ようやく準備が終わったのか、指の動きが一瞬止まった。そしてニヤリと笑う。

「これで決まりだ!」

 サザムは叫ぶと同時に、両手の指先を俺に向けた。するとサザムの両脇の土塊が舞い上がり、蛇のようにうねりながら、俺に襲い掛かってきた。

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