第十一章① ※前話をスキップした方はこちらから読み始めてください。
【前回のあらすじ】※前話をスキップした方用
ホーシー一団が囚われている拠点を見つけたアズールたち。ルルと二人で救出に向かうと、洞穴には仲間たちが死屍累々と転がっていた。
なんとか生きているが、呪術のせいで身体はゾンビのように崩壊寸前! 囚われのバンクスから「サザムが時々やってきて謎の粉をかける」という供述を聞いたアズール。
何とかしようと決意し、キャンプに戻って夜を明かすのだった。
というところから、今回の話が始まります。
船が来るまであと三日。しかし三日もあれば、仲間たちの身体は完全に崩れてしまうだろう。一番元気なバンクスでさえ、二日後には積み重ねられた人々と同じ状態になる。それがルルの見立てだった。
仲間たちは、きっとサザムの魔力源にされている。だから殺さず、長く苦しむ方法で放置するのだ。そうすれば、強い想念が生まれて、サザムは強力な術をバンバン使えるから。本当に人間の考えることじゃない。恐ろしい奴だ。
だが仲間の発見は色んな意味で幸いだった。まず全員がどこにいるか把握できたし、呪術を解けば想念も生まれない。少なくとも恨みの気持ちは今より減る。仲間を助けるだけでなく、サザムの力を削ぐことができるのだ。
俺のプランはこうだ。まずは全員を回復させるだけの量の魔法薬を作る。
もし俺がサザムなら、呪術が解けた時、真っ先に行うのは回復の妨害だから。魔法薬が作れないよう、この島のジャングルすべてを焼き払うなんて暴挙に出るかもしれない。(サザムなら本当にやりそうだ)
だから先に三日分の魔法薬を作っておく。材料も多めに確保しておくつもりだ。準備ができたら、サザムの粉を止める。
呪術を解くのは難しそうに思えるが、今回のケースでは難しくない。呪術はその性質上、決められた手順でことを行わない場合、効力が発揮されない。サザムが定期的に粉を撒きに来るということは、その手順が必要なのだろう。だから一度でも粉を撒くのを阻止もしくはタイミングをずらしてしまえば、今かかっている呪術はたちまち解けてしまう。
本当はサザムの目が届かないところに仲間たちを隠せれば楽なんだが、病人たちは動けない。それに隠せる場所もないし、地の利がある原住民から逃れるのは難しいだろう。奴が粉を撒き忘れてくれると一番楽なんだけど、そんなヘマを願っても仕方ない。だからその時が来たら、俺が直接対峙するしかないだろう。サザムと戦うことになるかもしれない。できれば戦いは避けたいところだが。
俺は三人にこのことを説明し、今日は魔法薬作りに専念したいと頼んだ。三人は賛同し、できる限りの手伝いを約束してくれた。俺の目が届く範囲内で、三人は薬草を採取する。クレディが詳しいので、良質な薬草をどんどん集めてくれた。だから俺は魔法薬を作ることだけに集中できた。
急ピッチで行ったので、今日の夕方には三日分の魔法薬が完成した。相当魔力を使ったので、晩飯時にはクタクタだった。休憩しながら、これからについてボンヤリと考えた。
「このまま応援を待った方がよくないか」
言いにくそうにホーシーが切り出した。
「苦しんでいる仲間を見捨てるようなことは、とてもできない。しかし今アズールを失えば、俺たちは全滅するだろう。迎えの船が来ても、何食わぬ顔をしたサザムだけを乗せて戻るかもしれない。そして次の調査にまんまと加わって、さらなる犠牲者が出るかもしれないんだ。だったら仲間たちには悪いが、逃げ切った方が勝ち目がある。どうだろうか」
ホーシーはなるべく感情を出さずに告げた。一団を率いる長として、苦渋の決断だろう。しかし、より多くの仲間を帰すには、最適な方法なのも納得だ。
だが俺は断った。理由は次のとおりだ。
「確かに期日まで逃げ切って、味方の船と合流できたら俺らの勝ちだ。でもサザムはそれを許すか? ポートを敵に回したんだ。自分が原住民側に加わっていることがバレた今、口止めとして俺たちを狙ってくるはずさ」
ホーシーはうつむいた。他の二人も気まずそうにしている。だが俺は続けた。
「今攻撃してこないのは、俺たちを油断させるためだろう。もしかしたら、別の何か企んでいるかもしれない。そうして希望を持たせてから、一気に落とす。それが呪術師の手だ。落差が大きいほど怨念が得られる。まあ、怨念は十分にあるし、俺たちを生かす理由はないよな。どのみち捕まった人たちにかけられた呪術は、回復魔法で何とかなるような呪術じゃない。長く苦しませつつも、しっかりと殺す術だ。奴の策略にはまらないためにも、今動くべきだと俺は思う」
俺が話し終えても、誰も何も喋らなかった。現場を見ていない三人でも、そのおぞましさを理解してもらえたんだろう。そして自分が同じ目に遭わないためにも、俺の計画に同意してくれた。
サザムとの対峙は翌朝に決まった。