第十章② ※グロが苦手な方は今回を飛ばしてください。
【注意】
今回の内容は、人によってはグロだと感じる描写があります。作者としては通常範囲だと思いますが、グロが苦手な方は今回の話をスキップし、次話から読み始めてください。
※次話の前書きに今回の話のダイジェストを付けています。
ホーシー一団と話し合い、今回は俺とヒギンズだけで洞穴へ向かうことにした。ヒギンズが道案内役で、俺は偵察役だ。
今日洞穴を見つけた場所まで行くと、俺はヒギンズと別れた。異常を察したらすぐに逃げて仲間に報告するため、ヒギンズはその場で待機している。
さて、俺は頭にルルを載せ、慎重に近づいた。敵の手前おしゃべりは厳禁だが、二人きりなので普通に話せた。
「ルル、お前はどう思う?」俺は小声で尋ねた。
「異常な想念だ。絶望も濃いし、よほど苦しんでいるのだろう。これほどの絶望は、普通に生きていれば起きない。ただ……」ルルが言い渋った。「拷問を受けていれば別だがな」
全身ゾクリと震えた。気温は暑いくらいなのに、脂汗がやけに冷たい。ルルもぶるりと全身を震わせた。
「一応魔力で防御するといい」
「どうやるんだ?」
「膜みたいに、全身を魔力で包むのだ。すると自分より弱い魔力は防げるぞ」
「へえ、そうか。やってみる」
俺は魔力で全身を包んだ。もちろんルルを包むのも忘れずに。見た目に変化はないが、なんだかお気に入りの毛布に包まれているような気分になった。
そろりそろりと洞穴に近づく。試しに遠くに石を投げた。物音がしたのに、誰も出てこない。どうやら見張りはいないか寝ているようだ。だが洞穴の中からは、呻くような、気味悪い声がひっきりなしに聞こえてくる。
意を決し、俺は洞穴の中を覗き込んだ。そして絶句した。吐き気に襲われ、隠密行動にも関わらず走り去ると、その辺の茂みに吐いた。隣でルルも吐いた。胃液まで吐いて、ようやく俺は落ち着いた。
呼吸を整え、周囲を見回す。ジャングルは相変わらず夜の静けさに包まれていた。幸い誰にも見つかっていない。
「いけるか?」俺はルルに尋ねた。
「ああ」
ぐったりしたルルを頭に乗せ、俺は洞穴に戻った。覚悟を決めたので、二度目はなんとか平常心を保てた。
どうやらここはホーシー一団の収容所らしい。見張りはおらず、洞穴にはホーシーたちとお揃いの作業着を着た人だけがいた。狭い洞穴だが、手前と奥で様相が違う。
洞穴の奥には何人もの人が折り重なっている。はためには死体を積んでいるようにしか見えない。そして手前の限られたスペースには、ところ狭しと数人が座っていた。
これだけなら、異常ながらも納得できる。だが吐き気を感じた最大の原因は、全員の肌が赤く爛れてたから。肉が溶けて、皮膚の真皮が丸出しになっている。見るからに痛々しい。奥にいる人物なんて、まるでゾンビだ。そして何が一番恐ろしいって、全員が生きていたこと! 最初は死体だと思っていた人々だったが、後になって全員生きていると知った時は言葉を失った。
「どういうことだよ、これ……」
俺は人目も憚らずつぶやいた。
「呪術だ」
ルルが耳元で呟いた。
「人体を分解する術。本来なら遺体の処理に使う術だが、生きた人間に使うだなんて。しかもご丁寧に、術の進行速度を極限まで遅くしている。何も知らない人から見たら、恐ろしい病気にしか見えないだろうな」
手前に座っている者は比較的軽症だった。状況を確認していると、俺は息が止まった。手前にいるのはついこの間まで一緒にいた、バンクスとロイだったのだ。
バンクスはこの中で、一番軽症だった。だがロイは足首の怪我が致命的だったのだろう。骨折した足首から下の部位がなかった。
「バンクス、おい、しっかりしろ」
俺はバンクスに声をかけた。意識朦朧としていたバンクスだったが、何度目かの声かけでハッと意識を取り戻した。そして俺を視認するやいなや、ガッと肩を掴んだ。
「死にたくない、死にたくない!」
「わかった、まずは落ち着け」
錯乱するバンクスを正気に戻すのに、かなりの時間がかかった。若干落ち着いたバンクスは、捕まった後のことを話してくれた。
「俺はロイと一緒に逃げたんだが、ジャングルの中で奴らが待ち構えててな。ああこれは殺されると思ったんだが、奴ら、俺たちをこの洞穴へ連れてきたんだ。縛られなかったし、俺一人なら逃げられるかと思ったが、ロイがいるから逃げられなくて。
それでこの洞穴に来たら、アイツがやってきたんだ。俺らの魔術師だった奴だ。あの野郎! 何か原住民と話したかと思うと、俺たちにわけわかんねえ薬を飲ませて、変な粉を振りかけやがった。
そしたら身体が焼けるように熱くなってな。気づいたら意識がなかった。で、起きたらこうだよ。ロイは俺よりも苦しんでるし、昨夜は足がとれちまった。逃げる体力もないし、時々奴らがやってくる。で、変な粉をかけて帰って行くんだ。
逃げたらみんながどうなるかわからないし、もう立てる力もない。逃げることもできず、ただ崩れていくのを待っているだけなんだよ。もう気が狂いそうだ。なあ、お前ならなんとかできるだろ? 俺たちを助けてくれ」
最後にバンクスは大声で泣き出した。涙の代わりに眼球から血が垂れる。俺はこみ上げる吐き気をグッと堪えた。
「わかった。なんとかできるよう、俺も協力する。薬ができるまで待っててくれ。くれぐれも俺が来たこと、原住民たちに知られないようにな」
バンクスは何度も頷き、俺たちは再会を誓った。そして俺はヒギンズのもとへ戻り、野営地へ帰ったのである。
野営地で全員が寝てから、俺はルルと話し合った。
「解けるか?」
「定期的に粉をかけると言っていたから、粉さえ止めれば効力はなくなるだろう。ただ……」
「ただ?」
「回復できても、全快はできない」
「つまり?」
「欠損や後遺症は残るということだ」
「……」
人生でこの日以上に胸糞悪い気分で過ごす夜はなかった。