第十章① 【ミッション】敵の拠点を探せ!
翌日も、朝から南国の強い日差しが俺たちを襲う。夜明けから一気に暑くなり、まだ寝ていたいのに、喉の渇きで目が覚めた。
朝食を食べながら、俺たちはこれからについて話し合った。クレディからの説明を聞いて、ホーシーもヒギンズもすっかり事情を理解していた。ただし、味方であるサザムが敵側についていることだけは理解できないといった面持ちだが。
船が来るまであと四日。大人しく逃げ惑うこともできるが、いつ襲撃されるかわからない。サザムだけでも戦えない状態にしたいが、あれだけ狡猾な呪術師だ。きっと何かしらの手をつくして、すぐに攻撃を仕掛けてくるだろう。呪術師は他人の想念を使っていくらでも自己回復できる。ある意味でうらやましい限りだ。
俺が寝ている間にホーシーたちは語り合って、一つの計画を思いついた。
それは「原住民の病気を治してしまおう作戦」だ。アズールならできると評価した上での作戦だと、ホーシーが全容を教えてくれた。
「敵側にサザムがいる限り、俺たちの手の内は筒抜けだ。安全に逃げるためにも、サザムの戦力を削ぐためにも、病人を治しちまうのが手っ取り早いと思ったのさ。それに病気が治れば、原住民たちはサザムの言うことを聞く必要がなくなる。もしかしたら治療したアズールの方が上だと認識して、こちらの味方になるかもしれないしな。サザムの戦力も減らせるし信頼も失う一石二鳥の作戦だと思うんだが、どうだろうか」
尋ねつつも、ホーシーもヒギンズもクレディでさえも、この作戦しかないという目で俺を見てくる。
だから俺はたっぷり間を置いてから応えた。
「実は俺も同じことを考えていたんだ」
ホーシーたちは一気に表情を緩ませ、俺の肩をバシバシと叩いた。
「焦らしやがって! 悪いやつだ!」
長く続いた緊張が一気に解放された瞬間。誰もが最高の笑顔だった。
さて、そうと決まれば話は早い。まずは隔離された病人たちを見つけなければ。早速ヒギンズが隠れ場所探しを始めた。が、ヒギンズの中では、すでに候補地がいくつかあったらしい。地図を見ながら四拠点の説明をしてくれた。長いので説明は省くが、人が居住できそうな箇所を絞ったとのこと。水辺や洞穴がありそうな斜面がわかれば、すぐに目星がついたらしい。
ここからはなるべく全員で動いた。用心棒たる俺から離れるのは得策ではない。それに分散するほど仲間も残っていなかった。敵に襲われたら一目散に逃げ、助けの船が来るまで身を隠す。それが唯一の決定事項だった。
俺たちは近場の拠点から一つずつ探っていった。川べりの拠点では休息を取り、休み休み探索を続ける。どちらにせよ、四日間逃げ切れば俺たちの勝ちだ。敵に追撃されなければ、急ぐ必要はない。
はじめの二つは外れだったが、夕暮れに目指した三拠点目は有力候補。池付近の洞穴だ。俺がはじめて原住民に襲撃された、あの池付近である。ホーシー一団が上陸した際に水辺を重点的に調べたのだが、その時に洞穴を発見したそうだ。
夜はこちらも野営したい。だから今日は日が落ちる前に場所だけ確認して、詳しい調査は明日行う予定だ。
先頭を歩くヒギンズは地図とコンパスを見比べ、何度も場所を確認している。いつ原住民とバッティングするかわからないので、自然と気持ちが引き締まる。振り向いたヒギンズは仲間たちに言った。「まもなくだ」と。
息を殺してジャングルを歩く。まもなく茂みが開けるというタイミングで、ヒギンズが手招きした。俺はヒギンズの横に行き、彼が指さす方向を注意深く眺めた。
「あそこに洞穴があるだろ。あの中が怪しい。俺たちが上陸した時には誰もいなかったが、サザムの指示で病人を隔離した可能性もある。中は五人くらいしか入れない狭さだが、水辺と食料確保にこの上ない場所だ」
「わかった」
目をつぶり、俺は魔力の流れに意識を向けた。ジャングルは様々な生物が潜んでいるが、魔力を出すのは人間だけ。周りに三人の仲間がいるが、四つ目の魔力が確認できれば、確実に誰かいるということになる。
一、二、三……ここまでは仲間と同じ数。……四! 五、六──
中断して、思わず周囲を何度も見た。仲間たちも慌てて周囲を確認するが、敵に囲まれている様子もない。
「どうした?」一番近くにいたヒギンズが小声で尋ねた。
「あの洞穴、せいぜい五人だっけ」
「ああ、そうだ」
「とんでもない! 確実に十人以上いる」
ヒギンズは一瞬叫びそうになったが、理性で抑えた。そしてホーシーとクレディに向かって頷いた。当たりのサインだ。他の二人も表情が強張る。
「ひとまず今は離れよう」
ホーシーの決断で、俺たちはその場を離れた。
まあ、もともと場所の確認だけだったから予定通りなんだけど、洞穴の正体が気になる。しかし誰かがいるなら、調査は夜の方がいい。夜闇に隠れて行動した方が、原住民に見つかりにくいからな。少なくともまだ明るさが残る今の時刻では、逆に見つかってしまう。調査には不適格だ。だからはやる気持ちを押さえて、夜がふけるのを待った。
覚悟していたとはいえ、敵の拠点の発見に俺たちは動揺していた。火口付近の村とは違い、小さな拠点だと思っていたから。いても五人ほどで、十人以上いるのは完全に予想外だった。もし病人が詰め込まれているとして、見張りは何人いるだろう。もし全員が元気な原住民で、洞穴を覗いた途端、襲い掛かってかかってきたらどうしよう。さすがの俺でも戸惑う。
もっと最悪なのは、別の原住民がいること。今までの原住民とは無関係で、彼らなりのコミュニティを築いているかもしれない。侵入者である俺たちを歓迎しないだろう。それにあんなに狂暴な原住民と共存しているんだから、新原住民も同じくらい狂暴である可能性が高い。もしそんな奴らに出会ったら、新たな敵が増えるだけだ。
× × ×
夜。日付が変わった頃に俺たちは移動した。