表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
84/147

第九章③ 奴の目的は何?

 俺は理解した。初代がまだ生まれ故郷の村にいた頃、この島の人間が漂流してきたのだ。その時はお互いに意思疎通できず、村人たちが漂流者に言葉を教えた。教えてもらう代わりに、初代は彼の言葉を習った。

 その時に話した片言の言葉が、まるで今のサザムそっくりだったのだ。


 なるほど、そういうことか。そうとわかったら話は早い。俺はクレディに俺の翻訳を筆記させた。

 流暢な原住民の言葉はわからなかったが、サザムの言葉は完全に理解できる。そして片方の言い分がわかるから、自然と原住民側の発言も推測できた。



 話をまとめるとこうだ。どこかに別拠点があり、サザムと見張りの人間が戻ってきた。(何かはわからないが)いい結果が得られたとサザムは喜んでいる。

 しかし原住民がしきりに不安を口にしている。(ここは事情がよくわからなかった)

 サザムは大丈夫だと喜んでいたが、原住民と話すうちに不機嫌になり、「このままでいいのか」と怒った。

 原住民はなんとかしてくれと抗議していたが、サザムはまだ足りないと言う。最後には「もういい!」と叱り飛ばし、全員に寝るよう指示した。「神罰が下っても知らないぞ!」と言い捨てて。



 サザムの一言で宴会は終わった。焚火を消し、原住民が全員小屋に引っ込むのを確認してから、俺とクレディはこれまでについて振り返った。


「どうやらサザムは、奴らの弱みを握っているようだな」と俺。「じゃなきゃ、いきなり現れた奴の言うことを、これほど従順に聞けるわけがない」


 これにはクレディも同意した。

「僕は家族だと思うんです」とクレディ。「さっきの宴には、成人男性ばかりでしたよね。女性や子供がいないのは変です。人質として切り離されているのでしょう」

「小屋の中で寝ていたんじゃないのか?」

「子供なら考えられますが、女性はいた方がいいでしょう。給仕役として使えますから。でも宴の料理も、男性が自ら作っていました。もちろん彼らの文化を知らないので女人禁制の宴なのかもしれませんが、部外者のサザムさんがいたんです。それほど格式高い宴とは思えません。それなら、ますます女性に働いてもらった方が楽なはずです」

 確かに。女性を卑下するわけではないが、男性だけの宴というのも不便に思う。


「僕、一つ思いついちゃったんですが」とクレディ。

「もしかして流行り病では?」

「病気か」と俺

「ええ。未開の地において、病気は死活問題。特に次々と村人を襲う流行り病は、恐怖そのものといえます。そこへ文明の治療薬を持ち込んだら、村人からは信頼されるはず。原住民たちの心を掴むには、一番手っ取り早い方法でしょう」

「なるほどな」


 確かに。魔力に精通した者なら、魔法薬についての知識もある。呪術師は毒薬を調合するというから、流行り病に似せた魔法薬を作るなんて簡単なはず。

 そもそもサザムは魔術師としてホーシー一団に加わったのだから、フェイクをかませるほどには魔力に対しての知識があるだろうし。


「ここ以外の拠点っていうのは、きっと病人を隔離する場所なんですよ。治療法がない時代は病人を隔離したと言いますし。で、きっと捕まった仲間たちは生贄にされて……」

 そこまで言うと、クレディは言葉に詰まった。


 それ以上は言わなくてもわかる。というか、同じことを思った。

 おおかた神への生贄として命を捧げるか、病気を持ち込んだとして殺されたのだろう。食人風習があるなら、病人の栄養食になった可能性もある。人が狂うと何をするかわからなくなるということは、魔王との戦いを通じて十分すぎるくらいに学んだ。


「せめて骨くらいは拾わないと、ポートに帰れません」

 少し落ち着いてから、クレディが呟いた。

「それに、万が一にも、もしかしたら、生きているかもしれません。その望みは捨てたくありません」


 決意を新たに、俺たちはホーシーの元へ帰ることにした。このまま別拠点を探すのは、さすがに無理だ。大人数が潜伏できる場所をヒギンズに見てもらった方がいい。報告と作戦の練り直しを兼ねて、俺たちは帰路についた。


 もと来た道を歩いていると、先を歩くクレディがヒッと声を上げ立ち止まった。思わずクレディの背中にぶつかる俺。クレディの肩越しに前方を見ると、サザムが立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ