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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第八章① サバイバル生活で大事なのは頭だな、きっと。

 漂流している間に、俺は気を失ったらしい。気づいたら、俺はどこかの浜辺に倒れていた。

 懐を見ると、ずぶ濡れのルルが丸くなっている。流されていなくて本当によかった。触ってみると身体は冷たいし、ちっとも動かない。不安になったが、ちゃんと呼吸していた。深いため息が出た。この時まで生きた心地がしなかったよ。


 俺はヤシの木の木陰に移動すると、背中の荷物を下ろした。ルルを砂浜に置き、俺も再び地面に寝転がる。ここで、ようやく一息ついた。


 ここはどこだろう。南国の島なのはわかるが、人気がまったくない。ただ波の音が聞こえるだけ。時折、海鳥の鳴き声がするだけで、とても静かだった。



 今俺がいる状況を整理しよう。

 目の前には海が広がり、地平線には何も見えない。そして今俺がいる陸地は、見える限り砂浜が続いている。

 内陸部に目を移すと、鬱蒼としたジャングルが広がり、中に入らないと何があるかもわからない。

 手近な木には果実がぶら下がっているので、当面の飢えはしのげそうだ。

 見る限り、民家や船など、人がいる痕跡はまったくない。個人的には雨風をしのぐ家が欲しいところだが、民家どころか洞窟もなかった。



 ひとまず俺は、ルルが起きるのを待つことにした。俺自身もずぶ濡れなので、服を脱いで絞る。水気を切ると、ルルの身体を拭ってやった。今の俺には、これしかできることが思いつかなかった。でもこの気温なら数時間もあれば自然乾燥するだろう。強い日差しを避けても暑かった。


 ふと空腹を感じて、一日近く(もしかしたらそれ以上)何も食べていないことに気づいた。

 見える範囲に、ヤシの実は落ちていない。はるか頭上にぶら下がっているヤシの実に、俺は魔力を向けた。モルダバイトのおかげで、目の前のものを操作するくらいなら、魔力が封じられた状態でもできる。

 捻じ切られたヤシの実が、フワフワと俺の手元に落ちてきた。これまた魔力を使って、ヤシの実上部を切り取る。実そのものをコップにして、俺はヤシの果汁を一気飲みした。

 美味い。この時のヤシの実が、人生で一番美味しかった。果汁が俺の体内に染み入り、優しく胃腸を癒してくれた。


 二つめのヤシの実をもぎ取った頃、ルルが目を覚ました。俺は事情を説明し、ルルにもヤシの実を飲ませた。ルルも「これほど美味いものはない」と喜んだ。


 腹ごしらえすると、今後について話し合った。

 ルルの見立てでは、気候的にポートよりも南にいるらしい。ポートがある大陸は北方に尖がった形をしており、ちょうどポートを避けるように、南東風や海流が俺たちを運んだのではないか。ポートの南東にはサキガケ諸島という島々がある。そのどこかに俺らはいるというのだ。

 地理が苦手だからなんだかよくわからないが、とにかく俺たちが南方の島にたどり着いたというのはわかった。というか、状況として、そうとしか言いようがなかった。


「で、どうやってポートまで戻るんだ?」

 ルルの話を聞いた後、たまらず俺は尋ねた。


「慌てるな。この海域は船の往来が多いはずだ。数日待てばどこかの船が通るだろう。それにサキガケ諸島なら、無人島の方が少ないはずだ。誰かいるかもしれないから、探してみよう」

 人がいるかもしれない! 救助の目途が立ったら、一気に不安が和らいだ。

「じゃあ探してみるか」


 俺はジャングルに入ることを決意した。荷物が多いと動きにくいので、剣以外は置いていく。誰かに持っていかれないよう、ヤシの葉でトランクを隠した。救出の目印になるよう、砂浜に大きくSOSと書いておく。



 すべての用意を終えると、俺たちはジャングルへと踏み入った。砂浜も暑かったが、ジャングルの中も、うだるような暑さだ。ムシムシしていて、蒸し饅頭になっちまう。むしろ潮風が吹いたり直射日光を避ける分、砂浜の方が涼しくて快適だった。


 無風で湿度が高いジャングルの中を、汗を拭きながら進んだ。すぐに喉が渇き、常にヤシの実を手放せない。そんな苦労をしても、道なき道を進むため、思うように前進できなかった。それがまたイライラや喉の渇きを増幅させた。


「こんなんなら、砂浜を歩いた方がよかったな」

 俺が愚痴をこぼすと、ルルは面倒くさそうに返した。


「でもジャングルを選んだのは君だろうが」

 確かに。飲み水目当てで、川のありそうな場所を探そうと決めたのは俺だ。

 でもよく考えたら、ヤシの実があるからそこまで急いで探さなくてもよかった。それに浜辺を歩いたら日差しがつらそうだと思ったが、これもよく考えたらヤシの葉を被ればいい。なんなら日が落ちてから移動してもよかった。俺は数時間前の自分の愚かさを悔いた。正常に頭が働かないとは、実に恐ろしいものである。


 生い茂る草木をかき分け進んでいると、ふっと開けた空間に出た。

 池だ! 俺は安全確認も忘れて、池に飛び込んだ。頭上のルルもこの時ばかりは嫌がらなかった。

 清水が汗を流し、全身を冷やしてくれる。幸い一メートルほどの浅い池だったので、俺は風呂のように池を堪能できた。


「おい、この池にはワニや狂暴な生物はいないのか?」

 身体が冷えて、冷静になったルルが尋ねた。


「大丈夫だって。何かあれば、俺の魔力で倒してやるさ」

 そう笑っていると、目の前に何かが落ちた。少しして、プカリと矢が浮いてきた。矢だとわかった時には、次々と矢が降ってくる。


 俺たちは慌てて池を出ると、近くの茂みに逃げ込んだ。もう最初いた場所なんて関係ない。やたらめったら走ったさ。

 相手が誰かは知らんけど、何の確認もせずにいきなり攻撃してくるということは、明確に俺たちを殺す意志があるということ。捕まったらどうなるかわからない。少なくとも話し合いが通じる相手ではなさそうだ。


「こっち!」


 声がして、俺は足を止めた。右手に三メートルほど崖があり、上で誰かが手を振っていた。幸い斜面は硬い地盤だったので、凹凸に足を引っかけ、俺はなんとかよじ上った。最後は上から引っ張り上げてくれたおかげで、追手に見つかる前に登ることができた。

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