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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第六章② 交渉スタート

 一階の酒場では、エンジと仲間たちが盛り上がっていた。テーブル上にはグラスが並び、すっかり酔いが回っている。


「おう、アズール! 何買ったんだよ」

 トランクを持った俺を見て、エンジがゲラゲラと笑った。「お出かけかい」「いいものは買えたか」など仲間たちが囃し立てたが、俺は無視して階段へ向かう。


「お前もこっちに来いよ!」

「今度な!」

 俺はさっさと二階へと上った。


「付き合い悪りぃぞ!」

 階下からエンジの愚痴が聞こえたが、すぐに笑い声があがる。酒の席での話題はすぐに移ろうものだ。すぐに俺のトランクのことも忘れてしまうだろう。



 部屋に戻ると、ルルが寝ていた。俺はトランクをベッドに放り出すと、すぐさま机に向かった。


「遅かったな」とルル。

「ああ、ちょっとな」

 ルルへの返事をそこそこに、俺は机の上に金を広げた。驚いたルルは机の上に乗り、俺が計算する様子を眺めていた。


「何か買うのか?」

「まあな」

 魔法薬を売ったおかげで、それなりに金はある。遊んだり色々買い揃えたせいで出費も多かったが、手元の魔法薬を売ればもう少し資金が増えるだろう。


「何を買うんだ?」

 待ちかねたルルが、金を数える俺の腕を引っ搔いた。こいつ、都合がいい時だけネコの武器を使いやがって。血は出てないが、めちゃくちゃ痛い。


「船賃だよ。ポート行きの船に乗る」

「正気か!」ルルは全身の毛を一気に逆立てた。


「本気だよ。明日の朝一で頼みに行く」

「お前というやつは! お前というやつは!」

 引っ搔いた俺の腕を、ルルは何度も前足で叩いた。爪が出てないので、まったく痛くない。責めるような口ぶりだが、その声はとても嬉しそうだった。


「そうと決まれば荷造りだな」

 ルルは俺のトランクを器用に口で開けると、口で運べるものを次々とトランク内へ放り投げた。


「いやいや、俺がするから!」

 俺はルルの口からパンツを取り上げると、トランクの奥底にしまった。


 トランクの中には、衣類や日用品。調合に使う乳鉢や使いきれなかった薬草を入れた。この町に来た時は剣とギターくらいで、ろくな所持品がなかったが、思いのほか荷物が増えていた。だが細々したものは、トランク一つで十分。ギターを背負って、腰に剣を下げて、手にはトランクを持って、そして頭上にはルルを乗せて。俺は旅が終わるまで、ずっとこの基本スタイルを貫いていた。


 荷造りが終わり、机の上の金を集め、少しの書き物をすると、俺は早々に床に就いた。明日はやることがいっぱいだ。今のうちに、しっかり休んでおかねば。



    ×    ×    ×



 翌朝。日が昇った直後に、俺は民宿を出た。眠そうなルルを頭の上に乗せ、ポートの船を目指した。


 案の定、船員たちは働いていた。船から積み荷をせっせと下している。誰に話しかけようか迷っていると、昨日会った青年船乗りを見つけた。彼が船から降りたタイミングで、俺は声をかけた。

「おはようございます!」


 早朝の来客に彼は面食らっていたが、昨日同様の爽やかな笑顔を俺に向けた。

「おはようございます。何か御用ですか」


 礼節をわきまえているが、迷惑そうなオーラは隠せていない。だから長い時間をもらわないよう、俺も単刀直入に告げた。

「この船に乗りたいんです。責任者はどなたですか」


 青年はさらに面食らった。爽やかな気配は消え、素の部分が見えたようだった。

「船乗りになりたいということですか?」

「いえ、ポートに行きたいんです。いくら払えば乗せてもらえますか」


「ちょっと待ってください」

 俺を置いて、青年は船へと駆け出した。そして誰かと話すと、坊主頭が眩しいベテラン船員を連れて戻ってきた。赤毛の髭がツンと天を向き、青年船乗り同様、ポートの民であることが理解できた。

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