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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第六章① なんかゴチャゴチャ考えてみた。

 エンジとの会話は覚えてないが、それからの俺の行動は、よく覚えている。エンジに別れを告げて、町を彷徨った。そして一度も行ったことがないカフェに入った。


 知り合いがいないのを確認してから、俺はテーブルについた。海が見える窓際の席で、窓を開けると新鮮が海風がドッと顔に押し寄せた。


 どうしても今は誰にも邪魔されず、ゆっくり考えたかった。もちろんルルでさえ。

 だから窓を開けて、ルルを外に放り出した。ルルはニャーニャー言ってたが、一人にさせてくれと言って窓を閉めた。テレパシーで文句を言われるかと思ったが、ルルは大人しくその場を去った。


 この席からは船着き場がよく見える。しかし建物の陰になって、ポートの赤い船体は見えない。



 俺は海をじっと見つめた。船の合間で揺れ動く水面。海鳥が空を行き交う。

 途中、店員が注文したコーヒーを持ってくる気配がした。しかし俺は反応せず、ただじっと海を見ていた。ホットコーヒーの芳醇な香りが、時々鼻孔をくすぐってくる。だが俺は海にだけ意識を向けていた。



 なぜだろう。俺はじっくり考えごとをしたくて入店したのに、いざ考える段になったら、何も考えたくなくなった。

 ただ不規則に揺れる水面からなんとか規則性を見つけたくて、ただずっと海を見ていたんだ。



 海を見つめていると、これまでのことが次々と浮かんできた。

 この町で散々遊んだこと。

 魔法薬が思いのほか売れたこと。

 かつて母さんと一緒に魔法薬を作ったこと。あの時は面倒だったけど、覚えて損はないと言われて手伝ったな。母さんの言うとおりだよ、まったく。まさか独身で妊婦向けの薬を作るとは思わなかったけど。でも、そのおかげで魔法薬が飛ぶように売れて、今それなりにお金がある。調剤道具も質がいい白磁製を買えたし、術式を書いた石もペンダントにして、消えないように刻印してもらえた。思えば、それなりにいい石も買えたよな。無自覚で石を選んだけど、あれも六世の目利き力があってこそだろう。本当に先代たちには助けられている。まあ、ギターは弾けないけど。でも「教え方」が上手くなったから、今ではエンジがジャンジャカ弾けるようになった。俺としては悔しいけど、まあ結果オーライだよな。うん。でもまだ多分、俺が気づいていない(むしろ忘れている?)だけで、たくさん先代たちに助けられているんだろうな。海が見たいのだって、そもそもは先代たちの願いでもあったし。


 そうなると、俺の行動って、無意識に先代に操られていないか?


 いや、言葉が悪い。影響されて、俺本来の意志からねじ曲がっている気がする。


 そうだよ。今のポート行きだって、六世が色んな鉱物を見たいと願ったから。近くにあるという初代の故郷を見たいからだよな。俺の意志でもあるけど、先代たちの影響が強い。正直、魔力のコントロールなんて銀製のペンダントがあれば困らない。今は高くて買えないけど、このまま魔法薬を売り続ければ、すぐに資金は貯まるだろう。今だって生活に支障はないし、このまま生きていく分にはポートに行かなくても困らないはずだ。それに魔法薬を売るだけなら、俺が作る必要もない。一般には安価品を輸入して売ればいいし、どうしてもという薬だけ俺が調合すればいい。オーダーメイド製として高く売ってもいいだろう。この町の人なら買うはずだ。そうすれば、もっとすぐに資金は貯まる。いや、そもそも今の生活を続ける分には、石製のペンダントで困らない。このままでもいいんだった。


 じゃあ今、俺を突き動かしているのって、何なんだろう。


 俺は先代の願いを叶えるだけの駒なのか。


 俺は何がしたいんだ? 俺は何を求めているんだろう?


 この時、ふいにコーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。俺は瞬時に<今>に意識が戻った。

 どれほど時間が経ったのだろう。口にしたコーヒーはすっかり冷めていた。苦味がツンと口内を刺激して、スッと喉奥に消えていく。コーヒー味の唾液が口内をリフレインして、いつまでも苦味が存在感を放っていた。


 苦味を感じながら、俺は考えた。

 俺は何がしたいんだろう。何をしたくないんだろう。


 一つ言えるのは、俺の人生を他人に取られることだ。せっかく魔王を倒して先代からの因果が終わったんだ、自分の人生を満喫したい。それが先代たちの意志であっても、俺の人生を浸食していい理由にはならないはずだ。俺の人生は、俺に主導権がある。俺の好きにしていいものだ。


 その考えのもと、今の生活を見直してみた。毎日魔法薬を作って、エンジと遊ぶ。確かに楽しいし充実しているが、思いっきり誰かに人生を握られている気がする。


 ハインツが亡き今となっては、エンジが一番気の合う友人だ。だがエンジが俺の人生を握っていい理由にはならない。

 それに、もしエンジがいなかったら、この町にいる理由はない。エンジの知り合いだから、俺も住人たちと仲良くしているだけ。

 きっと住人たちも、俺が「エンジの知り合いだから」仲良くしてくれるに違いない。さらに言ってしまえば、知り合いが多い分、王都にいた方が俺にとって楽しい生活ができるだろう。


 そもそも俺は魔法薬を作る仕事がやりたいわけじゃない。今は金のために魔法薬を作っているけど、俺は元来体を動かす方が好きなんだ。泳げないから漁師になるつもりはないけど、どうせ好きなことができるなら、剣を使う仕事がいい。

 そうだ、王都では諦めた騎士になる夢も、他国なら叶えられるかもしれない。

 俺自身は、もう騎士にならなくてもいいと思っているが、用心棒とか、剣を使う仕事ならぜひやりたい。魔法薬を作るのは嫌いじゃないが、老境に至ってからでも始められる仕事だ。

 だったら今俺がすべきことは、身体を使うこと。剣を使う仕事であれ旅であれ、若いうちに色々なことに挑戦したい。


 こんなことが浮かんでは沈み、思考を行ったり来たり。周囲が暗くなる頃には、俺の意志は固まった。

 一杯のコーヒーで長居してしまったので、多めにチップを払い店を出た。


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