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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第三章② ※若干の血なまぐさい展開にご注意ください

 焚火を中心に、五人の男が車座に座っている。

 若造から老年まで、年齢層はバラバラ。いずれもならず者という言葉がぴったりな、下品な男たちだ。

 酒を飲みながらゲラゲラと笑い、今日の成果を喜び合っていた。なお、内容は聞くに堪えないものなので割愛する。


 この集団の頭と用心棒は、一目見てわかった。頭はでっぷり太ったハゲ頭の男で、金の装飾品をジャラジャラつけていた。全部の指に金の指輪をはめていて、いかにも動く気がないという出で立ちだ。それに他の男たちは粗末な服を着ている。明確に格差があった。


 一方、用心棒はあっさりとした黒衣で、傍に樫の杖が転がっている。服装といい装備といい、これでは魔術師じゃないという方が無理があるだろう。そして禍々しい魔力と強い悪意は、魔術師を中心に渦巻いていた。


 それにしても、用心棒は俺の魔力に気づいてもよさそうなものだが。

 どうやらすっかり酔いが回ったらしい。火影の影響を抜きにしても、ヤツの顔は真っ赤だ。用心棒としてそれでいいのか? まあ、敵のことだから、俺が気にする必要はないのだが。


 幸い、連れられた女子たちは、男たちと数メートル離れている。焚火も当たらない場所で、お互いに身体を寄せ合って夜の寒さを乗り切っていた。


 可哀そうだが、これなら大立ち回りになっても、女子たちに被害が及びにくいだろう。女子たちはいずれも可愛い子ばかりで、その中に一等小さな子、シャナが震えていた。


 俺とルルは目で合図をする。お互いに許可が出たので、それぞれ幹の裏から躍り出た。



 俺は回り込み、頭の背後をとる。そして頭めがけて斬りつけた。


 飛び出た瞬間、誰かがあっと叫んだため、咄嗟に頭は逃げようとした。


 しかし、すでに刃からは逃れられない!


 左半身をバッサリと斬った。だが致命傷にはならず、流血しながらも頭は逃げようとしている。



 意外にも、部下たちは俺に刃を向けた。てっきり頭をやられて逃げ出すと思っていたのに。背後に用心棒を隠し、じりじりと俺に向かってきた。


 なるほど、術式発動までの間、用心棒を守る算段か。

 普通の魔術師は、魔術を使うまでに時間がかかる。一から魔力が流れる回路を構築するため、よほど使い慣れた術以外、発動に時間がかかるのだ。

 まあ、俺の場合、過酷な修行で魔力の使い方を熟知したので、考える間もなく魔力を使いこなしているが。(自慢じゃないぞ!)


 普通の剣士であれば、用心棒の挙動に注意しないだろう。一発斬りつければ倒せるし、王宮魔術師でもない限り大した術を使えないから。

 でも用心棒をしているくらいだから、それなりに術は使えるんだろうな。今のような場面なら、金縛りを使うだろう。魔術師同士には効かないが、魔力への耐性がない人間なら効果抜群。動けない間に部下たちが剣でめった刺しにすれば、すぐに敵を倒せる。うーん、なんて効率的な連携プレイだろう!


 だが残念。俺には魔術師のこともよくわかる。

 だから部下たちを適当にいなし、用心棒へガンガン攻撃した。王国の英雄、アーサーと互角にわたり合った俺からすれば、部下たちなんて屁でもないからね!


 案の定、用心棒は何もできない。ただ樫の杖で俺からの攻撃を避けるのにいっぱいいっぱいだ。このことは、部下たちも察したらしい。



「撤収だ!」

 部下の一人が叫んだ。俺がその声を聞いた頃には、部下たちが頭を抱えて走り去るところだった。俺が視線を反らした一瞬を見て、用心棒も駆け出す。


 しまった!

 と思ったが、女子たちは無事だった。悪人が野放しになるのは癪だが、彼女たちを保護することが何よりも重要だ。



「危ない!」

 俺が女子たちの安全を確認していると、ルルが叫んだ。振り返ると、魔力の衝撃波が俺に向かってきた。


 なんという悪意の塊!


 俺は耐えられるが、このままでは女子たちに甚大な被害が出る。これほどの悪意なら、身体だけでなく、心も蝕むだろう。



 俺は咄嗟に自分の魔力を放った。本来ならバリアとか、別の方法があったかもしれない。だがあまりに一瞬の出来事で、考える暇はなかった。俺は反射的に自分の魔力を放出していたのだ。



 数秒後、魔力による攻撃が止まった。ヤツらは逃げ切ったのだろう。


 用心棒の魔力を消し去った途端、俺は膝から崩れ落ちた。一気に過剰な魔力を使ったことで、身体に多大な負荷がかかったのだ。一気に脂汗が噴出し、荒い呼吸が続いた。


「ニャー」

 ルルが俺のポケットを叩いてくる。促されるままポケットに手を入れると、黒い石が真っ二つに割れていた。強制的に魔力を使ったことで、魔力封じが壊れたのだ。


 このままではまずい。ルルを見ると、白い石をくわえている。そして尻尾で俺の腕を撫でた。


 そうか、身体に書けということか。俺は思い出しながら、腕に文様を書いた。複雑な術式じゃないので、なんとか書けた。すべて書いた頃には、魔力の流出がピタリと止まった。


「ありがとな、ルル」

 俺が頭を撫でてやると、ルルはニャーンと嬉しそうに鳴いた。


 それから俺は女子たちを枷から解放した。誰もが涙で顔をクシャクシャにしながら、俺に礼を言った。

 シャナは泣きながら俺に抱きつき、いつまでも離れなかった。そんなシャナを見て、俺は血の気が引いた。シャナのポケットいっぱいに、様々なキノコが詰まっていたからだ。俺が必要だというから、家を離れた場所まで採取に出かけたのだろう。どんな攻撃よりも、このことが一番痛かった。


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