第二章③ 俺の恩人が秒で殺されたんだが
「おう、次はそっち運んでくれ」
「いや、そうじゃなくて」
「邪魔すんな、タイミング悪い奴だまったく」
俺はジャンから聞いた話を簡潔に伝えた。気が立ってる時のチーフに理路整然とした話は通じない。要点だけ伝えるに限る。
チーフは作業しながら、俺の話に適当な相槌を返した。
「──だから、さっさと逃げましょう」
「馬鹿、大事な荷物が被害に遭ったらどうする! 誰が賠償金を払うんだ」
「でもそう言ってる場合じゃ……」
「じゃあお前が今すぐ全荷物を運んで来い! 検品は終わったからな」
「無茶言わないでくださいよ、あと何分だと思って……」
俺は時計を見ようとした。でもすぐ無用になった。
ファンファーレが鳴り、ガチャガチャと金属音が聞こえた。俺には聞き覚えがある。あれは甲冑が動く音だ。窓辺によると、騎士団が大通りを歩いている。
そして魔王の前にやってきて、ピタリと止まった。
どうやら間に合わなかったようだ。さすがのチーフも黙って窓の外を睨んでいる。
巨大な魔王対王国騎士団。数の上ではこちらが有利だ。だが巨大な魔王に、どれほど通じるのだろうか。
しかし俺には希望が見えた。
騎士団騎士の先頭に白い鎧の騎士が立っている。その人はアーサー。騎士団長にして国の英雄と謳われし人物だ。
国内に出没した凶悪魔獣すべての討伐に関わり、周辺国との剣術試合で何度も優勝した人だ。
実は俺も一度だけ手合わせしたことがある。騎士団への入団テストの時で、圧倒的強さに震えた。君が入団してくれたら心強いのにと言いつつも俺の視力に気づいた人でもあった。
そんなアーサーを俺は尊敬していた。彼が気づいたせいで不合格になったが、あれほど強い人と刃を交えたことが誇らしかった。剣を振るう姿はしなやかで無駄がなく、美しいとしかいいようがなかった。
そんなアーサーがいるのだ。何とかなるかもしれない。
俺は期待しながら窓の外の光景を眺めていた。
「我こそは──」
アーサーが名乗りに、誰もが耳を傾けた。
その時だ。
魔王の目がカッと光った。そして光線が大通りを走った。
あまりの眩しさに、俺は目をつぶる。遅れてドオォンと鈍い音が鳴った。
目を開けると、そこは地獄だった。目の前の騎士たちは消えていた。いや、光線によって蒸発したのだ。大通りの石畳には、騎士たちがいた箇所が黒く焦げていた。
そこからはうまく呼吸ができなかった。息が吸えるようになって、ようやく頭が回った。そしてすべてを理解した。どっと汗が噴き出た。肌を滑る汗が異常なほどに冷たかった。
そして俺はこう呟いた。
「いやこれ無理すぎるだろ」