第一章②俺のスペックが高すぎて困る件
王都とクルスの間には、広大な森がある。そして森に入ったら別の国になる。
この世界に往来の制限はないので、無許可で隣国へ行けるし、いつでも森を通り抜けられる。ただ俺は生まれ育った国を出ることに、少しの不安と大きな興奮を感じていた。
そして日が傾き始めた頃、地平線が毛虫のように膨らんできた。森が近づいてきたのである。
一般的に、森には魔獣が棲んでいる。しかし人の往来が多いため、この森の危険生物は数十年前に王国騎士団によって駆逐された。だから今では野宿ができるほど安全な森になっている。
まあ、俺の場合、剣もあるし魔力も使えるし、なんなら魔獣のルルがついている。だから一般人よりは何倍も危険に対処できるはずだ。
森の入り口に差しかかった頃には、空はすっかりオレンジ色だった。
どこで夜を過ごすか迷ったが、俺は森の中に入ろうと決めた。春の夜はまだ肌寒い。あるなら洞窟で夜を明かそうと思ったのだ。ちなみに、一本道は森の中も続いている。大きく離れなければ、すぐに道を見つけることができた。
森に入る前、ルルがブルッと身震いした。つられて、俺の頭も大きく揺れた。
「なんだ、どうした?」
「いや、まあ、別にいいだろう」
「なんだよ」
「まあ、その、なんだ、気を引き締めていくんだぞ」
ネコになっても、相変わらずルルは意味不明だ。気を引き締める必要なんてあるのか?
まあ、一応は夜の森だ。魔獣は出なくても、うっかり野生動物が現れて襲われるかもしれない。まあ、この森に出るのはウサギか鹿程度だけど。
森に入ってすぐ、一気に夜が襲ってきた。辛うじて光が感じられるうちに、野営の準備をした方がよさそうだ。王国騎士団になるために学んだ野営術が、まさか今に役立つとは思わなかった。
俺は手早く薪を集めて、火をつけた。魔力があれば、指先一発で火がつけられる。なんて便利なんだろう。この調子で食事を出現させてもよかったが、魔力で作ったと考えると、なんだか食べる気が失せる。
それになんだか疲れてきた。身体が重くて、すぐにでも寝てしまいたい気分だ。
ちょうど近隣の木に果物が実っていたので、もいだ。魔法薬に使う植物を見慣れたおかげで、食用植物を見つけるのは容易い。今になって、俺は自分のサバイバル能力の高さを自覚した。
一本道がまだ見える距離に、大きな川があった。俺はその川の近くで夜を明かすことにした。ひときわ大きな木の下に座り、収穫した果物を食べた。質素な食事だったが、歩きっぱなしの身体に果汁が優しく染み込んだ。
ある程度収穫してから焚火のもとに戻ると、ルルがいなかった。そういえば、いつの間にか消えていたな。まあネコは果物を食べないから、あっちも勝手に食事をしているのだろう。俺は構わず一人で食べた。
食べ終えて一息ついた頃、ルルが戻ってきた。