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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
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第二章② どこも上司ってのはクズすぎるもんだぜ

 荷車を引き、俺は街中を駆けまわった。普段は馬を使うが、怯えて小屋から出ようとしない。

 俺が手こずっているとチーフがやってきて「じゃあ走れ」と言った。チーフの頭はおかしいと思ったが、それ以外に手はなかった。

 だから俺が馬車馬のように働いているわけだ。これは特別ボーナスが出てもいいぐらいの働きだと思う。


 北へ南へ。チーフ指導の下、俺は街中を飛び回った。

 俺の訪問に得意先は驚いていたが、人と会えたこと、荷物が届いたことを喜んでいた。


 少しだけだが、話をすることができた。聞いた内容をまとめるとこうだ。


・いつ魔王が現れたのか、誰も知らないこと(気づいたらいたそうだ)

・魔王は微動だにしないこと

・魔物たちに傷つけられた人はいないこと


 さらに王宮へ物資を届けたところ、運よくジャンに出会えた。

 ジャンは同級生ヨークの兄貴で、今は王宮に住み込みで料理人見習いをしている。武器オタすぎて笑えないヨークと違い、ジャンはみんなの兄貴で頼りがいがあった。俺も何かと相談したり、同い年のヨークより親しくしていた。


「アズール、無事だったか!」

 会うなりジャンが抱きついてきた。普段と変わらないジャンの笑顔に、俺は救われたように思う。


「おばさんは元気か?」

「微妙かな」

「まあ、そうだよな。うん」

 快活なジャンから、歯切れの悪い答えが返ってきた。


「街の様子はどうだ?」

「見た通り」

「まあ、そうなるよな」

「城はどんな感じなんだ?」

「てんやわんやだよ。女どもは片っ端から倒れるし、偉い人は会議室でギャーギャー騒いでるし。おかげで一時間おきに軽食を運ぶはめになって、料理番はフル稼働さ」

「頑張ってるんだな」


「でもよ、いい話もあるんだぜ」

 ここでジャンは声をひそめ、にやりと笑った。続きを急かすと、俺の耳元でこう言った。


「近く、騎士団が討伐に出る」


 俺はパッと顔を離した。そして魔物に聞こえていないか、周囲を見回した。


「正午からな」

 ジャンは小声で付け足した。時計を見ると、あと三十分ほどである。俺は無言で頷いた。ジャンもわかってるように力強く頷いた。


「ところでお前、よく働いてるな。こんな事態なのに」

「チーフがうるさくてさ」

「俺も。料理長がうるさくてな。『緊急時こそ飯が必要だ』って。まったく熱い人だよ」

「うちも……いや、違う気がする」

 俺が言うと、ジャンが笑った。


 別れ際に焼きたてのパンをくれた。ご褒美だといって。紙袋に入ったパンは温かく、その温もりが嬉しかった。


「でさ、悪いんだけど」ジャンが付け足す。

「ヨークの様子、見てきてくれないか? 家にいればいいんだけど、変なことしてないか心配で。あ、ついででいいからさ」

 魔王云々よりヨークに会うのが面倒だったが、ジャンの頼みは断りづらい。ましてやパンをもらった後だから。

「わかったよ。でも俺とチーフしかいないから、全部の仕事をやらされてるんだ。期待しないでくれよ」

「全然いいさ。頼んだぜ」

 そういったジャンの笑顔はいつものように眩しかった。変な事態になったが、ジャンの笑顔だけが日常に思えた。


 王宮から倉庫に戻ると、時刻は正午前。

 あと少ししたら、魔王の足元にある大通り付近は戦場になるだろう。見たい気もするが、一刻も早く離れるべきだ。


 俺は荷物のチェックをしているチーフに近づいた。本当は機密事項だから、言うべきではない。しかし死んでしまってはオシマイだ。さすがに強欲なチーフも自分の命なら惜しんでくれるだろう。

「チーフ、いいですか」

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