第十章⑦ いかに天才でもトラブルは読めないようだ
この二百九十年で、魔王は完全に消滅しませんでした。また、役目を終えた術式が先に崩壊してしまったのです。
そのため、魔王の魔力と術式が壊れた反動が、一気にお父様に襲いかかりました。すべては一瞬のこと。しかしその一瞬で、膨大な負荷がお父様にのしかかりました。
そしてお父様は絶命してしまったのです。
それからのことは、ご覧のとおりです。魔王は復活し、過去のように人々を苦しめています。
ただ違うことが二つあります。
一つめは、大量の魔物が発生したこと。
あれは魔王に殺された、この国の人々の亡霊です。年を経て亡霊が魔物となり、魔王に呼応して集まっているのですね。
彼らに理性や自我は残っていません。魔王が敵という認識は消えているでしょう。しかし邪悪なものは、より邪悪なものに惹かれます。だからより強い悪、魔王に集まってきているのです。
味方ではありませんが、人に害をなすという点では同列です。
今は面白がって静観していますが、魔王が本格的に始動したら、彼らも人間を攻撃し始めるでしょう。
二つめは、勇者一族の存在を知っていること。
術式を通して、間接的に勇者に触れることができたので、魔王はこれまでの封印の歴史はすべて知っています。
現在、魔王はかなり消耗しています。ただ本気を出せば、王都くらい瞬時に壊滅させられます。
そうしないのは、先に倒すべき勇者がいると知っているからこそ。だから無駄な戦闘は避けて体力温存し、全力で勇者を倒すつもりなのです。
ただ、魔王自体も相当弱っています。あなたがその気になれば、倒すことができるでしょう。
衰弱した魔王と、勇者の末代。お互いにとって、これが最後の戦いになるのです。
この国が存続するか、滅亡するか。この国の未来は、すべてあなたにかかっているのです、アズール。