第十章⑥ 遠い過去も現代につながっているんだなあ
さて、肝心の術式ですが、成功しました。
実はこの時、遠めに魔王が見えるほど、魔王は王都の近くへ迫っていました。もしここで失敗したら、明日には王都が襲撃され、王国全体が滅びていたでしょう。
人々は祈るような気持ちで青年を送り出しました。ただ、本当に上手くいくのか、多くの人が半信半疑でした。
青年が地下へ消えて一時間も経たない頃でしょうか。遠目に見えた魔王の姿が消えました。街一番の早馬が、魔王のいた街へ確認に向かいました。
そして戻ってくるなり言いました。「魔王は消えた!」と。
一斉に街が歓喜に包まれました。誰もが抱き合い、喜びにむせび泣きました。街に、いや王国全体に平穏が取り戻されたのです。
それから、人々は復旧作業を急ぎました。
まずは後継の王を決め、王都の政治体制を整えました。軍隊を各都市に派遣し、生き残った人々を探しました。魔王が全国民を殲滅しようとしていたのは、この時にわかったのですね。
辛うじて殲滅を避けられた都市が中心となり、徐々に復興の輪が広がりました。その傍らで、青年を勇者として崇められ、彼を称える物語が生み出されました。
あなたも絵本で読んだことがあるでしょう。ただ真実を書くには、都合が悪いことが多すぎます。そのため肝心な部分は省略し、現在の内容になったのですが。
さて、青年が消えてからしばらくして、青年の妻子が王都へ呼び寄せられました。王宮そばに居を構え、日々王宮魔導士から指導を受けました。偉大な勇者の血を引く子です、誰よりも立派な魔導士へ成長しました。
そして息子が十二歳で結婚し、十三歳で男児が誕生。十四歳の誕生日には、父である青年の元へ旅立ちました。そして少年の息子が成長し、子が生まれ、次の代へと役目が移っていきます。
このサイクルは二百八十九年間続きました。
話は飛んで、今から十四年前です。あなたのお父様が、まだ地上で暮らしていた頃ですね。アズール二十二世が生まれました。
そう、あなたのことです。
計算上、最後の役目を全うするのは、アズール二十一世。あなたのお父様でした。役目の期間は十年なので、お父様の代ですべてが完結します。
そのため、お父様はある決断をしました。あなたを普通の子として育てるということです。無関係であるなら、役目など知らず、好きに生きて欲しいとのことからでした。
このことは、お父様から王族や王宮魔導士、関係者全員に話されました。そして可決されました。
なお、王族一同は納得した形を見せていましたが、勇者の存在を疎ましく思っていました。長年にわたり金を巻き上げる厄介な存在だと思われていたのですね。
それに年月が経つほどに、魔王の存在は絵本の中のものと思われるようになりました。現実味が消えて、おとぎ話だと思われたのです。
そのため、お父様の進言を快諾したふりをして、あなた方の権利を剥奪したのです。
ちなみに、あなたたち一族のことは、市民には知らされていません。限られた一部の人しか知らないため、地方から移住してきた人々だと認識されているはずです。ああ、ちなみにお母様はすべて知っていますよ。大臣の娘であり、王宮魔導士の一員でしたから。
こうして、あなたのお父様とお母様は、普通の市民として街で暮らしていました。そして役目の年になると、お父様も地下へと消えました。
お父様がいなくなった後も、ルルはあなたを見守っていましたよ。
ただお父様の意向を汲み、あなたに知られない形でサポートすることにしました。その結果、一番自然だったのがあなたの幼馴染みになることです。あなたに厄災が降りかからないよう、常に守っていました。
ただ魔力封じの呪いは、誰も知りませんでした。きっと一般市民に戻ってから、お母様があなたに施したのでしょう。本当にあなたを巻き込みたくなかったのですね。
さて、話が逸れましたね。記念すべき二百九十年目。それが今年です。
お父様は、いつものように魔力を供給し続けていました。そして最終日、春光祭当日を迎えたのです。十二時と同時に封印が終了します。魔王は完全に消滅し、お父様も帰還する予定でした。
しかし、予想外のことが起きたのです。