第十章④ 壮大な計画を立てられる人って、頭の中どうなってるんだろう
その内容は、こうです。
「まず、今すぐ魔王は倒せません。だから巨大な術式を使って、魔王を封印します。術式に用いる魔法陣ですが、サイズは王都と同等になります。また、魔王に妨害されないよう、魔法陣は強固なものでなければなりません。だから地下に魔法陣型のトンネルを堀るです」
青年は提言に、一同は絶句しました。しかし話はまだ続きます。
「さらに、この術式は常に魔力を注ぐ必要があります。魔法陣の中央に術者を配置し、魔力を供給し続けねばなりません。魔力が途絶えると、術式は一気に崩壊し、再び魔王が現れるでしょう。
この術式は、魔王の力を消耗させます。じわじわと魔王を弱体化させ、やがて完全に消滅させます。
魔王が消え去るには、誕生の十倍の日時が必要になるでしょう。建築が二十九年なら、魔王消滅には二百九十年かかる計算です。
もちろん、この頃には私は死んでいます。だから子々孫々に渡り、役目を受け継ぐことになるでしょう。もちろん他の人でも構いません。
ただ、この術式には相当量の魔力を消費します。一般の人なら一週間と持たず精神が消耗して死んでしまうでしょう。
さて、特に王族の方にお願いしたいことがあります。
私も子孫たちが問題なく役目を遂行できるよう、サポートしてほしいのです。衣食住の保証と配偶者の斡旋。また、残された家族が路頭に迷わないよう、面倒を見てほしいのです。
なぜなら、一度役目についた者は、一生日の目を見ることがないでしょうから。役目に差し障ることは、少しでも遠ざけさせてください。術者は命をかけるのですから、これくらいは大目に見ていただきたい。
いかがでしょうか。もし皆さんがこれらを保証できるなら、私は準備に取り掛かります。
魔法陣の設計図と後継者のための術式開設。あと、地下に大迷路を掘るのですから、この土地を守護する神にも挨拶しなければなりません。
迷えば迷うだけ、惨状は広がります。ご決断を」
会議のメンバーは、誰も何も言えませんでした。冷静に淡々と語る青年に、誰もが圧倒されていたのです。
いつもなら、メンバーたちは会議を始めたでしょう。しかし青年の話を聞くうちに、現在の事態がいかに深刻であるかを悟ったのです。
だから会議を始めるまでもなく、ゴーサインが出されました。
それからの進展は早かったです。王都の住人総出で、地下にトンネルが掘られました。老いも若きも、一心に掘りました。生き残るためには、掘るしかなかったからです。
青年は故郷にいる自分の妻子へ手紙を書きました。息子が成長したら、自分の元に来てほしいと。
そして街から選りすぐりの魔力が高い人物を集め、子々孫々のサポートをお願いしました。誰もが快諾し、二百九十年間、サポートを引き継ぐよう約束しました。王宮魔導士の発足は、ここからは始まっています。
便宜上、青年に王族に準ずる貴族の称号が贈られました。誰もが青年の子々孫々に従うよう、見える形として残したのです。
そうそう、青年は私の所にも会いに来ました。今でこそ地下にいますが、当時の私は王宮内の神殿に住んでいました。聖域としては地下の方が優れていますが、地上だと今以上に情報が入ってくるものです。
青年は私のもとへ来ると、王都全体に術式をかける許可がほしいと歎願しました。もちろん快諾しましたよ。私だって、国民が苦しむのは嫌ですからね。精神体である私は何の力も貸せませんが、許可だけもらえればいいと彼は笑っていました。
急ピッチで進められた工事は、一か月で完成しました。王国の九割が壊滅し、次は王都侵攻ではないかと震えている頃でした。