第十章③ 突如現れる天才ってカッコイイ。憧れる。
魔王は各都市を巡回し、人々を殲滅したのです。ただし、数人は殺しませんでした。
逃げた人々は、王都に集いました。そして自身が経験した悲劇を語りました。
そんな人々が王都に溢れ、恐怖は国中に広がりました。最初に王都を殲滅しなかったのは、国中を恐怖に陥れるせいだったのです。それに気づいた時、王都の住人は困惑しました。
最後に襲われるのは、王都になるでしょう。魔王が襲ってくる前に、なんとか倒し方を見つけなければなりません。
ただ、魔王はこの国の歴史上、初の存在です。どのようにしたらいいか、誰にも想像できませんでした。
生き残った人々は、魔王の倒し方を探しました。貴族たちも金を出し合って、高額な報奨金も用意しました。生き残った王族が主導し、魔王を倒した勇者には莫大な報酬と地位を与えることを約束しました。
この話は国中に広がり、各地で魔王に挑む猛者が現れました。しかし誰にも倒すことができず、無残に散っていったのです。
また一つ、また一つとして都市が滅亡し、先に逃げた者まで徹底的に殺されました。魔王は国民を皆殺しにするつもりだったのです。それが却って時間稼ぎとなり、有利に働きました。
王都では、生き残った人々が日夜作戦会議をしていました。
そんな会議の場へ、とある人物がやってきました。それまで会議には、我こそはと名乗る勇者が多数押し寄せていました。だから会議のメンバーも、また来たかと思っていました。その頃には藁にも縋る期待を持ちつつ、「また失敗するのか」と諦めにも似た境地に陥っていました。
でも一つだけ、違ったことがあるのです。
これまで勇者候補は、屈強な男たちでした。しかしこの時現れたのは、十四歳の青年だったのです。細くて小さな体に、メンバーは別の意味でガッカリしたのでした。どう見ても倒せると思えなかったのです。
しかし青年は言いました。「魔王を倒せるのは私しかいないだろう」と。
青年は高名な魔術師でした。人々を救済するため、世界各国を巡回しており、偶然この国を訪れた時に、惨禍を目の当たりにしたというのです。
会議メンバーは怪しみました。そこで街の魔術師を連れてきたのですが、彼の名を聞いて腰を抜かしました。そしてその実力を保証し、いかにすごい人物であるか説いたのです。
この当時は今よりも魔術師の力は強く、また魔力に優れた人も多い時代でした。だから会議のメンバーも青年のことを、渋々ながら認めました。
しかし、とあるメンバーが顔をしかめて言いました。
「さぞ高名な魔術師だとわかった。しかし、そうであれば、なぜすぐに魔王を倒してくださらなかったのです? 本当にあなたに人々を救う気があれば、惨禍を目撃した直後にお倒しになったはずでしょうに」
意地悪な質問にも、青年は平然と答えました。
「あなた方が考えている以上に、魔王を倒すことは容易ではありません。たしかに、私に魔王は倒せます。しかし私一人で倒せるわけではないのです。確実に魔王を倒すためには、国ぐるみでお力を貸していただけねばなりません。その協力を賜りたく、本日は訪れたのです」
青年は魔王の倒し方を発表しました。時折街の魔術師が補足しながら、会議メンバーに計画が伝えられます。途方もない内容に、人々は絶句しました。