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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
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第十章② 先祖がアホだと子孫が苦労する

 しかし奴隷たちに向かって、兵士たちは刃を向けたのです。

 

 もちろん多くの奴隷が訴えました。約束が違うと。しかし王はこう言ったのです。


「約束は守られているだろう。肉体という呪縛から、お前らの魂を解放しているのだから」と。



 奴隷たちは逃げ惑いました。しかし衰弱した彼らは、走ることすらできません。

 数百人の奴隷たちは、一瞬で皆殺しにされました。私の脳内には、今でも彼らの恨めしい声が木霊しています。それほどまでに凄惨な場面でした。


 さて、一方の王は満足げでした。大将や大臣たちも勝ち誇った顔をしていました。この頃には街の人々も感覚が狂い、敵国の奴隷が死んだことを悼む人は誰もいませんでした。

 敵を葬り、巨大な城壁が手に入ったのです。街全体が勝利の余韻に浸り、自分たちの功績を称えました。



 そして翌日、住民たちによって最後の建設作業が行われました。正午に完成させると同時に、城壁の完成を祝う祭りも行う予定です。そう、これが春光祭の始まりでした。


 順調に作業を終え、恭しい式典の中、王の手によって最後のレンガが積まれました。

 街中に拍手が起こり、楽団の荘厳な演奏が始まると、民たちは王を褒め称える歌を歌いました。


 この二十九年の間で、愚鈍な王は「強大な隣国を滅ぼし強固な城壁を手に入れた武勇王」と評価が変わっていたのです。


 しばしの間、街全体が勇ましい歌に包まれていました。しかし民の間でざわめきが起こり、どんどん悲鳴に変わっていきます。

 王が辺りを見ると、空が真っ黒になっていました。



 そう、まるで今この街に起きているのと同じ事態が起こったのです。



 突然の異常事態に、歓喜は絶望に変わりました。

 空が完全に黒く染まると、どこからともなくすすり泣く声が聞こえました。一人二人の話ではありません。

 大勢の人がすすり泣く声が、そこかしこから聞こえます。その声はおぞましいもので、住民の中には泣き出す人もいました。


 空には奴隷の亡霊が空を飛び交い、人々は恐怖の底に落とされました。しかし本当の恐怖を覚えたのは、この後です。


 亡霊たちは一か所に集まると、魔王へと変貌したのです。

 魔王は奴隷とされた隣国の人々の魂が集った形なのです。あと、これは神である私だからわかることですが、魔王は、隣国の守り神がベースとなっています。隣国の守り神の魂に国民の魂が宿って、魔王が生まれたのです。


 なぜ守り神が出てきたのか、あなたは不思議に思うでしょう。しかし守り神は、国民とともにあるもの。だから奴隷として連れて来られた時に、守り神も一緒に連れて来られたのです。

 しかし自分の国ではないため、守り神は霊魂の一種としてこの街に留まっていました。だから亡霊が集った時、守り神も一緒に集まり、恐怖の存在が生まれたのです。


 魔王誕生は一種の事故ですが、経緯は妥当なもの。そして同様の事態が起これば、私も魔王へと変貌したでしょう。



 突然の魔王出現に、人々は驚きました。私はこの国の歴史しか知りませんが、魔王出現は歴史上初です。

 ただ、この時の住人たちは目の前の存在が何かわからず、恐ろしいとは思いながらも、魔王が何者なのか見定めようと、じっと見つめていたのです。


 民には目もくれず、魔王は王を踏み潰しました。この時初めて、人々は目の前の存在が「害をなすもの」と認識したのです。



 それからの人々の反応は、様々でした。逃げる者、倒れる者、腰を抜かしてその場に留まる者。誰もが恐怖に支配されていました。


 魔王は大将や軍人、工事関係者を惨殺しました。自分たちを嬲った者から殺したのです。そして目標がいなくなると、飛び去りました。ここまで十分もかかっていないでしょう。


 生き残った人々は、あっけにとられました。てっきり皆殺しにされると思ったからです。

 しかし理解しました。殺すのは隣国を害した人だけで、一般人には手を下さないのだと。そう思い、安堵したのです。


 しかし、その予想は外れました。

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