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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
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第九章② しょうもないけどイントネーションって大事

「じゃあ俺から聞いてもいいか?」

「どうぞ」老婆は俺の方に身を乗り出した。


「魔王が探してるのは、あんたなのか?」

「おや、それをどこで聞いてらしたの?」

「魔王が言ってた。奴を差し出せって」

「あら、そうなの」

 老婆がルルを見ると、「言ってた」と言い頷いた。


「それなら話は早いわね。それで、どうしてその相手が私だと思ったのです?」

「だってあんた賢者なんだろ。魔王が探すくらいだから、あんたくらいしか思いつかねーよ」

 俺がそう言うと、ルルと老婆は顔を見合わせて大笑いし始めた。


 こっちが真面目に話しているのに、馬鹿にされた気分だ。ここに剣があったら、こいつらをぶった切ってやりたかった。


「ごめんなさいね。でもあなたは二つ大きな勘違いしていますわ。まず私は賢者じゃありません」

「えっ! でもこいつがあんたのこと賢者だって……」

「ケンジャって名前ですの」

「は?」

「だから、名前。あなたがアズール、この子がルルといいますよね。同様に私もケンジャという名前なんです。おわかりいただけましたか?」


 一瞬理解できなかったが、理解した途端恥ずかしくなった。穴があったら今すぐ入りたい。いや、今地下にいるから、これ以上地下には潜りたくないのだが。


「お前、騙したな」

 思いっきり睨んでやったのに、ルルは平然としていた。


「だから言っただろう、ケンジャだと」

「紛らわしいんだよ!」

 俺らのやりとりを見て、老婆もといケンジャはニコニコしていた。俺は今でもこいつがわかってて言わなかったのだと思っている。


「じゃあ賢者じゃないケンジャさんは、何してる人なんだ?」

「前に言ったろ、女神だと」

 ルルが曇りなき目で俺を見る。


「どうせメガミって苗字なんだろ。ケンジャ・メガミ。最高に素敵な名前だな!」

「いえ、私は本当に女神なのです」

 ケンジャも曇りなき目で俺を見る。


「今騙されたばかりの俺に、あんたも残酷だな。もう嘘は勘弁してくれ」

「では証拠をお見せしたらご満足いただけますか?」

「見せられるもんならな」


 俺の言葉を聞くと、ケンジャは立ち上がり滝に向かった。俺から全身が見える場所まで来た。

「見ていてくださいね」とケンジャ。

「おう」

「よそ見厳禁。瞬き注意ですよ」とケンジャは念を押した。


 何が始まるのだろうか。俺はじっとケンジャを見ていた。

 すると一瞬カッと光ったかと思うと、ケンジャがいた場所に別人が立っていた。よそ見していないし、瞬きも我慢できたと思う。何が起きたか、理解できなかった。


 ケンジャの代わりにいたのは、とても美しい女性だった。質素な白いドレスをサラリと着こなし、長い金髪はゆるいウェーブを描いていた。顔つきは俺たちに似ているが、美しさの次元が違った。

 それだけならただの美しい女性で終わったろうが、体が若干浮いている。そして微風に合わせて、木の葉のようにユラユラ揺れていた。その様子は、どう見ても人間に見えなかった。どんなトリックを使っても再現不能だろう。


 そして思い出した。彼女の姿は、絵本で見たことがある。建国神話に登場する女神と瓜二つだ。魔王とともに、昔絵本で見た覚えがある。建国以来、ずっと俺たちの国を守っている尊い存在だ。絵本に女神の名前がないのでケンジャと言われてもピンとこなかったが、姿だけなら見覚えがあった。


【おわかりいただけましたか?】

 女神の声が脳内に響いた。魔王の声と届き方は似ていたが、声音の優しさは別物だった。


「わ、わかりました」

 俺は何度も頷いた。そうしたら次の瞬間、女神が輝き、もとの老婆姿に戻った。


「人間と接していると、あの格好は何かと不便でしてね。普段はこの姿でいるのです。よろしいかしら?」

 俺は何度も頷いた。


 老婆は席につくと、お茶をすすった。

「あの、一ついいですか」俺は尋ねた。自然と敬語が口から出ていた。

「ほほ、お気遣い無用。敬語じゃなくて構いませんよ」

 ケンジャからの言葉を聞いて、俺は顔が熱くなった。


「あの、じゃあ、魔王が探しているのは、ますますあんた……いや、ケンジャさんじゃないのか?」

「違います。魔王が探しているのは勇者です。私ではありません」


 俺は安堵と同時にガッカリした。護国の女神を差し出すのは気が引ける。しかし目的の人物をこれから探し直すのかと思うと、すべてを投げ出したくなる。

「しかし魔王が誰を探しているのかは、知っていますよ」

「だ、誰なんだ、いったい!」


 俺は立ち上がらん勢いで、テーブルの上に身を乗り出した。その様子を見て、ケンジャとルルは顔を見合わせて笑っていた。くそ、さっきから二人していったい何なんだ。

「お前だ」ルルが俺を指さした。

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