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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
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第七章⑤ ご注文の品は一週間後に納品予定です。

「話してなかったのか?」

 ハインツの家からの帰り道、ルルが俺に尋ねた。


「言えるわけないだろ。腕だってあんなだったし、追い打ちかけられねえよ」

「知らないのも残酷なことだと思うけどな」

 ルルは普段の調子で言ってのけた。


 人の気持ちを考えろと言いたかったが、今回ルルはむしろよくやったと思う。俺ならずっと言えなかっただろう。ハインツが城を見て「どうして教えない」と詰め寄ってきて、そこで白状したに違いない。


 でもルルがあっさり教えてしまったせいで、ハインツにバレた。ルルの発言には肝を冷やしたが、結果として俺は自分の手を汚すことなく、ハインツに真実を突きつけることができたのである。


「なんつーか、ありがとな。ハインツに言ってくれて」

「何か礼を言われることがあったか?」

 ルルは本気でわからないといった顔をしている。だから俺はルルの頭をグリグリと乱暴に撫でてやった。


「あ、そうだ」

 撫でたついでに、俺はルルの髪の毛を数本引き抜いた。

「ヒャッ!」

「わりぃ、どうしてもお前の髪の毛が欲しくてさ」

「家宝にするのか?」

「バーカ、素材にするんだよ」

 俺はルルの髪の毛を持参した小袋に入れた。魔力の高い人の髪の毛二~三本、これにてゲットだ。


「よっしゃ、これで究極の剣が作れる!」

「まだそんなお遊びをしていたのか?」

 喜ぶ俺をよそに、ルルの目は冷ややかだ。水を差すルルに、俺はついムッとしてしまった。


「俺が遊んでるというなら、お前は何をしてるんだよ」

「私も魔王を消すために動いているぞ」

「嘘つけ。お前こそ意味不明なことばっかで遊んでるじゃねーか」

「私は遊んでなどいないぞ」

「じゃあ俺も遊んでないってことだ。人のことに文句つけるんじゃねーよ、バカ!」


 俺はルルを置いてサッサと立ち去った。ルルは足が遅いから、本気出した俺には追いつけないだろう。俺は怒りと達成感でぐちゃぐちゃになりながら、ヨークの元へ向かった。



 すべての素材を前に、ヨークは飛び上がって喜んだ。

「すごいや、アズール君! 君って本当に頼りになりますね」

「ま、まあな」

 並べた品々を見て、俺も自分の労働が誇らしく思えた。


「いやあ、どうしましょう。これから究極の剣を作るんだと思うと、震えが止まりません」

「頼むから打ち損じたー、なんて失敗だけは勘弁してくれよ」

「それはご安心ください。ハインツ君のためにも、素晴らしい一振を完成させますから。ああ、きっと究極の剣を持って戦いに挑むハインツ君は最高に勇ましいでしょうね。ぜひ現場に立ち会って、世紀の一瞬をこの目で目撃しないと……ああ、考えただけでゾクゾクしてきました」


 ヨークの相変わらずな変人ぶりも気に留めず、俺はハインツのことが気がかりだった。戻ってフォローすべきか? しかしあの状態のハインツには、何を言っても届かないだろう。必要なのは誰かの言葉ではなく、自分の中で整理する時間だろう。短くて済んだが、俺自身もそうだったし。


「剣は一週間後に完成します。その頃にハインツ君の自宅にお持ちしますね」

「あれ? 三日三晩じゃないのか?」

「それは鍛造の期間ですね。全工程では一週間以上かかるのです」

「そういうもんなのか」

「でもまあ、僕は一週間で仕上げますよ。早く完成した姿をお目にかかりたいですからね。ああ、僕が寝ずに過ごせる体だったらもっと早く仕上がるのに」


 とりあえず寝るようヨークに言いつけ、俺は完成を待った。一週間。それは生活面では長く感じたが、心の整理をするには短く思える期間だった。

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