第七章① 全然清々しくない朝帰り
俺は冷たい床の上で目が覚めた。
一瞬どこにいるかパニックになったが、旧校舎の地下室にいることを思い出した。ハインツとヨークとバカ騒ぎしながら、そのまま眠ってしまったようだ。隣にバカ面したハインツとにやけるヨークが眠っていた。
俺はハインツを起こすと、地下室を出た。
ヨークは旧校舎に留まり、制作準備をするらしい。それにレアメタルが足りないので、しばらく地下室に籠るそうだ。
最初はハインツも残ると言った。レアメタル発掘の協力を申し出たのだ。家から出られないハインツにとっては、今できる最善の協力方法だろう。だがヨークは断った。
「今回の作戦で一番重要なのはハインツ君です。魔王と戦うのですから。君には絶対に勝ってもらわなければなりません。だから今は無茶せず、腕を直してください」
それを聞いてハインツは歯痒そうにギプスを睨んでいた。だがヨークの言うことはもっともだ。俺もハインツに帰宅するよう促した。
こうして俺とハインツは人目を忍びながら帰宅した。時刻は朝六時前。そろそろ街の人々が活動しだす時間だ。
「なんかよぉ、早く怪我が治る方法ねえのかなぁ」
「そんな都合よく治るわけないだろ」
「誰か回復魔法使えねえかなぁ」
「バーカ。王宮魔術師が回復魔法が使えるなら、家に帰されてねえよ」
そう、回復魔法は名前こそ有名だが、使える人はほぼいない。
その理由は二つある。一つ目は専門性。回復と一口に言っても、仕組みを紐解けば人体組織の再生能力の超活性させること。だから人間の再生能力を超えることはできず、欠損した箇所は復元しない。ただ怪我がすぐに治るとか病気の時に免疫力を高めるには抜群の効力を発揮する。適切な作用を促すため、術者は人体の仕組みを熟知しなくてはならない。
回復魔法が使えない二つ目の理由は術者の魔力量。回復魔法は間接的に命に関わる。そのため見かけ以上に魔力を消費するのだ。国内有数の術者が集った王宮魔術師でも止血が限界だろう。
専門性は努力でいくらでも補えるが、魔力の総量は変えられない。だから世間的に広く認知されながらも誰も使用することができなかった。よほど強力な魔力を持つ者が現れない限り、叶わない願いなのである。
だが俺はたった一人だけ、回復魔法が使えるであろう人物を知っていた。ルルだ。あいつなら回復魔法を使えるだろう。
そして好都合なことに、ルルは俺らの目の前に現れた。あと少しでハインツの家に着く、そんな十字路で俺らを待ち構えていた。
「よぉ、ルルじゃないかぁ」
馬鹿ハインツ。せっかく無視しようと思ったのに。
「馬鹿、見つかっていいのかよ」
俺はハインツの横腹をギターで突いた。
「あぁ、やべぇ」
今になってハインツは青くなっていた。ヨークに会ったせいか、人に会ってはいけないことをスッカリ忘れていたようだ。
ハインツのせいでルルが寄ってきた。そして何か言いたげに俺の顔をジッと凝視している。
「こんなところでどうしたんだよぉ」
ハインツの奴、ヨーク理論で黙っていることにしたらしい。まあ、ルルも街のことなんて興味もないから、ここでハインツに会ったからといって誰にも言わないだろうが。
「これを」
ルルは俺に小瓶を渡した。




