第六章④ 引きこもると、世の中の流れとかわからなくなるよな
「やあやあ、アズール君にハインツ君。お久しぶりです」
「よぉ、久しぶりぃ」
「お前、こんな所で何してるんだよ」
「おやおや、欠礼しておりますよ」
俺はイラっとした。ヨークはこだわりが強く、細かいことにうるさい。この強引さはルルに似ていた。まったく、俺の周りはこんな奴ばかりだ。
「これはこれはお久しぶりです、ヨーク君」
「あ、やべぇ。俺、他の奴に見つかっちまったぁ!」
今さらハインツが慌てて俺の後ろに隠れた。お前の方が体が大きいんだから、絶対にはみ出すのに。
「ハインツ君は何か見つかってはいけない事情があるのですか?」
「王宮にいないから……」
「おや、帰省しているのですね。では王宮に戻ったら兄によろしくお伝えください」
ヨークはニコニコとしている。その様子を見てピンときた。
「ヨーク、今年の春光祭は行くのか?」
「もちろんですよ。僕は興味ないのですが、行かないと兄がうるさいですからね。でも、もうそんな時期だというのですか。この前街に出た時は、まだ雪があったというのに。まったく月日というものは速いものです」
俺とハインツは顔を見合わせて笑った。どうやらヨークは春光祭が終わったことを知らないらしい。当然魔王の登場も知らないだろう。
今までどうやって生活していたのか不明だが、ひとまず助かった。ハインツも安心して俺の後ろから出てきた。
「ヨークはこんな所で何してんだよぉ」
「よくぞ聞いてくれました! レアメタルを採掘していたのですよ」
そういってヨークは立ち上がった。ヨークが向かっていた壁面がごっそりと削られていた。むしろ小さなトンネルになっている。
ヨークは手にした子供用シャベルを振ってみせた。
「これは凄い発見ですよ。レアメタルなんて隣国じゃなければ自然に出土しませんから。でも僕独自の調査で、この地層に微量のレアメタルが含まれていることを発見したんです。もう感動ですよね。ただ多くの不純物が紛れているから、こうやって少しずつ掘り起こすしかないんです。参りましたよ。吹っ飛ばせれば楽なんですけどね」
ロウソクで照らしながら、俺とハインツは壁面を見た。壁にキラキラ光る何かが点在していた。スゴイものなんだろうが、俺もハインツもスゴさがわからない。科学の授業なんて寝て過ごした記憶しかないからだ。
「すげえなぁ、こんなに堀ったのかよぉ」
「ええ、頑張りましたよ」
「いつから掘ってたんだ?」
「今年の始めですかね。兄がうるさいので、見送ってからここに来ました」
「家には帰らないのか?」
「必要がないですしね」
「飯はどうしたんだよぉ」
「中庭で確保できますよ」
確かに旧校舎裏はかつて中庭として使用されていたが、今は荒れ放題の空地のはずだ。まさか雑草やかつての畑を活用したのか? 相変わらずヨークは変な所でアクティブである。
「でさ、レアメタル掘ってどうすんだよ。何か作るのか?」
「そうだんですよ! 去年ついに資金が貯まりましてね。ついに究極の剣を作ることにしたんです」
「へえ、どんな?」
いつものことだと思いながら、俺もハインツも聞いていた。「究極の剣を作る」と、出会った頃からヨークは毎日のように言っていた。だからみんな武器オタクの口癖だと思っていた。
「今度の剣は凄いですよ。魔王を倒した剣です」
思わず耳を疑った。なんてタイムリーな剣だ。
「そんな剣、あるわけないだろ」
「あるんですって! その剣を作った刀匠の本に作り方が載ってたんですから」
「そんなスゲー剣、どうやって作るんだよぉ」
「厳選された素材を使って、三日三晩眠らずに槌を叩くんです。そうすると作り手の魔力が伝わり、史上究極の剣ができるんですよ」
「なんかスゴそうだなぁ」
ハインツの目はギラギラしていた。魔王討伐が叶うと思ったのだろう。負傷してもやはり騎士だ。
「そんな特別な剣、お前に作れるのか?」
「理論上は可能です。僕の魔力なら足りるでしょう。もっともルルさんくらい魔力があれば、さらに強い剣が作れるでしょうがね」
嫌な名前を聞いたもんだ。俺は不快に思ったが、ハインツは相変わらず前のめりで聞いていた。
「すげー! なぁ、その剣できたら俺にくれよぉ」
「無茶言わないでくださいよ。いくら友人のハインツ君とはいえ、簡単にあげられる代物じゃないんですから」
「頼むよぉ。魔王を倒すには、お前の力が必要なんだからさぁ!」
「何を馬鹿なことを言っているんです。魔王なんているわけないじゃないですか」
ヨークはやれやれと言わんばかりに俺を見た。だが俺の表情を見て、何か悟ったのだろう。よくわからないといった表情をしていた。
「いやいや、君たち二人揃って僕を騙そうとしているのですか?」
「いや、実はさ……」
俺は魔王について話した。母さんから聞いた話だから、ところどころうろ覚えだけど。ハインツも説明に協力してくれたが、コイツも家にいたから街の混乱は見ていないんだよな。見てない人が、見てない人に説明する。なんとも変な感じだった。
「なるほど。にわかには信じがたい話ですが、現実は得てして不思議なものですからね」
理屈っぽいから説明に苦労するかと思われたが、ヨークはスンナリと理解した。
「そういうことであれば、お任せください。最高の剣を作り上げ、ハインツ君に捧げましょう。勝利と共にね」
「おぉ、ありがとうヨーク!」
ハインツはヨークに抱きついた。屈強なハインツが抱きついたので、細身のヨークは苦しがっていた。
「緊急事態では、こうしていられません。二人には材料集めに協力してもらいます」
「おぉ、何でも任せろ!」
俺もかと言いかけたが、ハインツが乗り気すぎて言うタイミングを失った。作り手と使い手、どうみても俺は余っているのだが。




