表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
23/147

第六章③ お待ちかねのアイツ、ついに登場★

 ハインツは考えるのをやめた。そもそも考えるのが苦手な奴なのだ。だから言い負かしてしまえば、簡単に俺の言うことを聞いてくれる。

 俺より体格がいいし力もあるのに、こういうところは可愛く思えた。


「本当に大丈夫だろうなぁ?」

「まあお前は布被っていけよ。見つかったら厄介だから」

「お、おう」

「曲がりなりにも騎士が二人いるんだぜ。最強だろ」

「そうだな!」


 ハインツはいそいそと出かける用意を始めた。

 ギターを抱えながら俺は考えた。確かに俺は強い。騎士団には入れなかったが、その年の試験で一位だったと教えてもらった。それに負傷しているが、ハインツもかなり強い。これまでに俺とまともに手合わせできたのはハインツしかいない。

 俺の独断じゃなく「アーサーの配下」にということでも証明されている。アーサーの配下は騎士全体の五パーセントしか選ばれないため、その実力は折り紙つきだ。いくら負傷しているとはいえ、パワーもあるから片手でも重い攻撃が出来るだろう。


 俺たち二人なら人相手ならもちろん、魔獣相手なら勝てるだろう。だが魔物は戦ったことがない。どうなるか未知数だ。そして魔物の長である魔王は、俺らより強いアーサーを瞬時に消し去ってしまった。真正面からぶつかっては、俺らも消し炭にされるだろう。


 だが今それを言っても、何にもならない。それよりもハインツと気晴らしする方が何倍も大事だ。

 住人以上に家から出られないハインツは、久々の外出に浮かれていた。オンチな鼻歌まで歌っている。

 俺はただ今は何も考えずに、この時間を楽しみたかった。


 ハインツの家族が寝静まったのを見計らって、俺らは外に出た。

 ハインツは飛び跳ねんばかりの勢いで街を駆けた。負傷しているのが腕とはいえ、いくらなんでも元気すぎる。よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。


 はしゃぐハインツを押しとどめて、俺らは旧校舎へと向かった。

 案の定、誰も出歩いていなかった。当たり前だ、魔物はウヨウヨ飛んでいるし店も開いていない。こんな夜中に出歩く方が不自然だ。


 ハインツは初めて見る魔物に驚いていたが、ずいぶんケロリとしていた。多分俺が堂々としているし何度も家を行き来しているからだろう。

 俺は当初あんなにビビっていたのに、無様な姿が見れずに残念だ。


 誰にも出会わず、俺らはスンナリと旧校舎に辿り着いた。旧市街地にあるような、二階建ての建物。もとから陰気な雰囲気だったが、真っ黒な空でますます陰気に見えた。

 しかし今日は隣に相棒がいる。不思議なもので、不気味であればあるほど面白く思えた。だから俺らは終始テンション高く半笑い状態だった。


「いつもの部屋でいいかぁ?」

 校舎に入るとハインツが尋ねた。俺らはいつも校舎二階、奥から二番目の部屋を使っていた。

 本当は奥の部屋が良かったが、先輩たちが使いまくったのだろう。落書きが酷いので、俺らは手前の部屋を愛用していた。


「いや、音が出にくそうな部屋がいいだろう」

 なんとなく二階はマズイ気がした。窓から音が漏れそうだし、地上よりも魔物から近づく。気配を察した魔物が近づいてきたら一巻の終わりだ。


 根拠ない理屈だったが、ハインツも納得した。だから俺らは音の籠りそうな部屋を探した。

「たしか地下室なかったけぇ」

 校内を巡っていると、ハインツが言い出した。

「避難用にってぇ」


 そうだ、俺も思い出した。

 隣国との戦争時、城壁と同時に地下壕が作られたはずだ。女子供が避難するための小規模な空間だが、かつて学校にも作られたという。

 ただ戦争から長い時が経ち、新校舎を設立する時は不要と判断され増設されなかった。だが旧校舎には地下壕があったし、「戦死者が襲ってくる」という怪談が在学中に流行した。


「あったな、地下壕」

「誰か押し込めたよなぁ」

「あったあった! 罰ゲームで」

「神隠し事件になってぇ」

「懐かしい!」

「俺たち叱られたよなぁ」

「そうそう、先生が魔獣みたいに目を釣り上げて……」


 そんな話をしながら、俺たちは地下壕に向かった。階段の一階踊り場に、不自然な空間がある。普段は雑多な荷物が置かれているが、床に隠し扉があり、蓋を開けると地下に繋がっている。


 そういえば、浮浪者の婆に会ったのも地下壕だったのだろうか。知らないだけで、地下には様々なものが隠されているのかもしれない。

 もしかしたら外に抜ける道があるかも。俺は明日、街の地下について調べようと思った。


 蓋は簡単に見つかり、あっさり開いた。学校にある地下壕だけに、子供の力でも開けるのだ。さすがに地下は暗いから、俺らはロウソクを持って入った。

 過去に同級生を入れたことがあるので、暗いのはもちろん知っていた。だから最初からハインツの家からロウソクは失敬している。


 旧市街地の地下とは違い、学校の地下壕はあっさりした作りだ。入ってすぐに広い地下空間が広がっている。子供だけで三十人ほどが避難できるだろう。もちろん生徒全員が避難するには狭すぎる。だが当時は従軍する生徒も多かったし、今より生徒数が少なかったから事足りたそうだ。


 そんな空間の奥に光が見えた。チロリ、チロリ。ロウソクが揺らめいている。俺とハインツはお互いの体を掴んだ。


 また心霊現象かよ!

 俺は最近こんな目に遭ってばかりだ!


 だが今日は怖くない。なんたって、ハインツがいるからな。それに俺も連日の怒りもあって「幽霊とやらがいるならとっ捕まえてやろう」くらいに思っていた。


 近づくと、壁面に向かって誰かがしゃがんでいる。ゴソゴソと動き、何か作業をしていた。近づいても振り返らない。俺らにまったく気づいていないようだ。

 そんな怪しい奴だが、近づくとすぐに誰だかわかった。ヒョロヒョロの体、爆発した髪の毛。見覚えがありすぎる風体だった。


「ヨーク!」


 俺が叫ぶと、そいつは振り返った。やはりヨークだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ