第六章② ギターって難しいよな、弾ける人マジ尊敬する
それから丸一日、俺は部屋に引きこもった。
なんかもう、感情がぐちゃぐちゃだった。どうせ仕事もないし、家にいたって誰も怒らない。
墓地から帰るとすぐにルルが家まで来たが完全無視。扉越しに何か言ってたが、部屋にあったギターをかき鳴らして妨害した。昔ハインツと一緒の買った三日で飽きた代物だが、思わぬ形で役に立った。
久しぶりに弾いたら楽しかったので、ギターで憂さ晴らしをした。最初は心配していた母さんだったが、ギターで遊んでいると思ったのだろう。ルルが帰ってからは何も言わなかった。
でも、そもそも俺はギターが弾けないんだ。ちっとも上達せず、またすぐに飽きてしまった。
せめてハインツと一緒に弾ければ楽しいんだろうけど。
そう思ったら、ハインツの所に遊びに行きたくなった。どうせ奴だって暇しているはずだ。もしルルに会ったらギターで殴ってやればいい。本気で殴る気はないが、そう思ったら楽しくなってきた。
だから俺はギターを手に、ハインツの家に出かけた。
墓地に出かけた翌日、夜八時頃の話だ。
ハインツの家に行くと、おっちゃんは驚いた。だが俺らは兄弟のように行き来していたから、夜の訪問でも普通に家に入れてくれた。
「よう、ハインツ!」
俺が部屋に入ると、ハインツはビクッと体を震わせた。何か体操をしていたようで、変な体勢のままベッドに倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か?」
「びっくりさせるなよぉ」
「悪い悪い。腕は平気か?」
「なんとかなぁ。それより腰ぶつけた」
俺はハインツの腰をさすってご機嫌をとった。ハインツはベッドに座り直したので、俺も隣に座った。
「どうしたんだぁ、ギターなんか持ってよぉ」
「暇だから久々に弾いたら楽しくってさ。なんか一緒に弾こうぜ」
「でもこんな夜に弾いたら妹が起きるだろぉがぁ」
確かにおっちゃんもおばちゃんも寝支度を済ませていた。妹はすでに寝ているだろう。
「それにギターの音が二つも聞こえたら不自然だろぉ。俺はいないことになってるんだからよぉ」
「妹が弾いたとかどうよ」
「無理言うなよぉ。手が届かねぇってぇ」
「なーんだ、ガッカリだよ!」
ギターを投げ出し、俺はベッドに寝そべった。
ハインツは笑っていた。そして俺のギターを拾うと、弾く真似をしてみせた。こんな夜に押しかけて迷惑どころか、むしろハインツは弾きたいように見えた。
「じゃあさ、外に弾きに行こうぜ。あそこならいいだろ」
ダメだろうと思いつつ、俺は尋ねた。ハインツは目をパチクリしていた。
あそことは、俺とハインツの隠れ家だ。俺らの学校は、裏に旧校舎があった。現在は倉庫として使われ、一般人が立ち入ることはない。
それを逆手にとって悪ガキたちのたまり場にもなっていたから、先生がよく巡回していたものだ。
ハインツの目が輝いた。でもすぐに輝きが消えた。
「ばぁか、無理だろぉ」
「弦を弾くだけなら右手でもできるだろ。どうせ鳴らして遊ぶだけだし」
「そうじゃなくてぇ。見つかったらどうするんだよぉ」
「あそこなら誰も来ないって」
「危険だろぉ」
「こんな夜中、しかも魔物が飛んでるのに先生が巡回すると思うか?」
ハインツは黙った。
「そんな時に誰が出歩くんだよ」
「……」