第六章① 不意打ちの下ネタにご注意ください
墓地に膝をつくのは不快だが、この時の俺は気にならないほどにいっぱいいっぱいだった。
勝手に出て行った父さん。無責任だと憎むこともあったが、それでもどこかで元気にしているのだと信じていた。自分だけ自由に生きていると、非難することで心の平静を保つ時があった。
だが父さんは死んでいた。墓の中でひっそりと。だったらもっと早く真実が知りたかった。そうしたら父さんを憎まず、ただ悲しみに浸れたのに。
墓石に刻まれた名前が父さんとは限らない。でも違うという可能性を信じられず、俺の中では感情が激流となって駆け巡っていた。吐き気がしてきた。
その時だ。墓の石扉が勢いよく開いた。
「ギャーッ!」
俺はひっくり返った。情けないが考えてもみろ、墓が内側から開くんだぞ。恐怖以外の何者でもないだろ。
墓の中から出てきたのはルルだった。
正体を知った時は安堵したが、俺はルルに殺意を覚えた。だが情けないことに腰が抜けてしまった。俺は地面を殴った。地面しか、このやり場のない怒りをぶつける場所がなかった。
「何をしているのだ?」
「こっちのセリフだよ!」
「腰を抜かしているように見えるが」
「お前のせいだろうが!」
「その上、失禁をしているようにも見えるが」
「黙れ!」
恥ずかしながら、この時の俺は股間をぐっしょりと漏らしていた。
まあ自然に墓が開くという怪奇現象が起きたのだ、普通の人なら漏らしてもおかしくない。そう思わないとやっていられないから、見逃してくれ。
「まあいい、これで話ができるな」
幼馴染が失禁しているというのに、ルルは動じていなかった。むしろこれ幸いとばかりに表情が輝いている。
「俺はちっとも良くねーよ!」
「まあ、聞くがよい。慌てる乞食は貰いが少ないというぞ」
「うるせえ。あのババアに言ってやれ」
「賢者は乞食ではないぞ。女神だ」
「あれのどこが女神だよ!」
「あれ? あれれ?」
ルルは上半身ごと首を傾げた。大げさな仕草がまたイラっとする。
「もしかして見えてない?」
「何が」
ルルは手のひらを差し出した。
「これは見える?」
「?」
どう見ても、ルルの手だ。特段何かがあるわけでもない。どう答えていいかわからず、俺はルルの手と顔を交互に見ていた。ふざけた奴だが、様子を見る限りふざけているようではなかった。
「おやおや?」
ようやくルルも何かを察したらしい。腕組みすると、一人考え込んでしまった。
この頃になって、ようやく俺の抜けた腰も戻ってきたようだ。ヨタヨタと情けないが、俺は立ち上がった。雰囲気やルルも嫌だが、股間が濡れているのが一番嫌だ。早く帰りたい。
「ふざけているわけではないのかね?」
「ふざけてるのはお前だろうが」
憂さを晴らすべく、俺は少しでもルルに悪態をついた。だがルルは俺の話など聞いていない。上から下まで、舐めまわすように俺のことをジッと見ていた。なんでこいつは漏らした男を凝視できるんだ。神経を疑ってしまう。
もう帰ってしまおう。俺が背を向けると、ルルの動く気配がした。
「そこか」
ルルは俺のズボンを下した。しかも下着ごと。モロ出しの股間が外気で冷えた。
「やはりな」
俺の尻を見ながら、ルルは納得していた。俺は素早くズボンを履くと、ルルの頭にゲンコツを食らわせた。
「お前なあ! 女だからって我慢してたが、やっていいことと悪いことぐらいあるだろうが」
強く殴ってないが、ルルは痛そうに悶絶していた。多少罪悪感を覚えたが自業自得だ。俺はルルを置いて家に帰った。