表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
19/147

第五章③ 夕刻を楽しむ墓場巡りツアー

 小脇に持てるほどの小さな箱で、街の東側への配送だ。わざわざ家と逆方向の地域に配達する必要はない。

 だがようやく落ち着きを取り戻したとはいえ、俺はまだ仕事をしていたかった。それに、どうせ帰ってもすることがない。母さんとも気まずいだけだろうし、俺が届けることになった。


 そんな俺は、東地区に差し掛かった時、あることに気づいた。

「こんなことしてる場合じゃねえ!」


 そもそも俺は、この街から脱出する方法を探していたのだ。そのために四日前、何も知らない不気味な夜にわざわざ抜け出したのだ。

 色んなことがありすぎて、俺自身すっかり忘れていた。そして不本意ながら、今の異常な生活にも順応していた。


 だが考えるまでもなく、事態は悪化の一途を辿っている。

 街を守る英雄どころか、執政機関の城も賢い大臣たちも消し飛んでしまった。外からの援軍がない限り、街内ではどうしようもないだろう。


 それにこのまま生活していけるかも怪しい。本日すべての荷物を配り終えてしまった。荷物がないということは、すべての資源があるべき場所へ配分されたということ。つまり各々が今手元にある資源だけで、やりくりしなくてはいけない。

 では手元にある資源が、すべてなくなったらどうだろう。飢えるか争いが起こるか。だが何が起こっても、抑止力となる騎士も混乱を収める統治者もいない。


 つまりこの街は、緩やかに衰弱していくことを意味していた。



 配達の道すがら、俺は考えた。これからどうすべきか。

 少なくとも明日は仕事にならないだろう。後からうるさいから、一応明日の朝、形だけ顔を出そうと思う。だが何もせずに帰らされるだろう。それから行動すればいい。


 そもそも今日は、ヨークの家に顔を出そうと思っていた。ジャンとの約束があったから。だが先にジャンの消息を知るべきだ。だから今日は城へ行こうと思っていた。しかしながら、本当は一刻の猶予もないのだ。


 せっかく東地区に来たのだから、今日は東地区で抜け穴がないか探そう。そして明日、ゆっくりジャンを捜索したらいい。

 ヨークはきっと家に引きこもって作業しているだろうから、いつ行ったって構いやしないだろう。


 キョロキョロしながら、俺は東地区を歩いた。他から見たら、よほど不審な人に見えただろう。だが幸い、街を歩く人は誰もいなかった。


 街は東西に分かれているが、作りは大して変わらない。だが立地の都合上、集まっている業種が違ったりする。西地区は平地が少ないため、店が集まっている。武器や金物など、特に工業面が強い。一方の東地区は、平地に恵まれている。城壁内で唯一農業が行われ、関連する業種が集まっている。東地区の朝市には新鮮な作物が並ぶと、街内では人気だ。


 だが「土地がある」のは、いいことばかりじゃない。東地区の日当たりが悪い場所は、墓地として活用されていた。


 不幸なことに、今日のお届け先は街内一の大規模墓地のそば。普段からいい気がするものではないが、空が真っ黒かつ魔物が飛び交うような状況なら、どうしたって気味悪い。

 いつも通り早足で駆け抜け、さっさと配達を済ませた。帰りも走って逃げる予定だ。


 しかしこの時は突然、本当に突然なのだが「墓を見たい」と思った。

 なぜそう思ったのか、俺にもわからない。まるで宝箱が眠っているような。見えない妖精が墓石の裏に潜んでいるような。そんな感覚に襲われたのだ。


 気が付くと、俺は墓地に足を踏み入れていた。さっきまでの薄気味悪さは、いつの間にか消えていた。むしろ初めての墓地にワクワクしていた。



 実は俺、生まれてこの方、墓参りをしたことがなかった。面倒でサボったわけじゃないんだ、そこだけは勘違いしないでほしい。ただ我が家には墓がないだけなんだ。

 おかしな話だが、物心ついた頃から俺の家には母さんしかいない。父さんが行方知れずなのはわかるが、普通は両親の祖父母がいるものだ。だが俺は一度も会ったことがない。

 死んでいるなら墓があると思うのだが、ないと言うのだ。どうしても納得できなくて、以前祖父母の所在について母さんを問い詰めたことがある。その時は「父さんも母さんも孤児だった」と言いづらそうに答えた。俺としては納得できていないが、事実なら飲み込むしかない。


 だから俺は人生で一度も墓地に入ったことがないのだ。

 とりあえず俺は、手近にある墓石から一件ずつ眺めて回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ