第四章⑤ 王都地下に広がる巨大通路
しかしながら、ルルが気にする賢者だが、まったく姿はない。小高い土の山が築かれているが、人が隠れるのは無理だろう。
いったいどこで待っているんだ?
俺が帰らないと安心したのか、ルルはずっと掴んでいた俺の手を解放した。
そして土の山に駆け寄り、しゃがむと足元の土を払った。
墓にそんなことしてバチが当たるとハラハラしていたが、地面が蓋のようにパカっと開いた。あまりに予想外で、俺は心臓が止まるかと思った。
しかしわかったら単純なことで、地下に通路があったのだ。その蓋が地面にあり、蓋を隠すように土が盛られていたとのこと。
わざわざこんな辺鄙な所にここまで手の込んだことをするかと思ったが、人工的に作られた地下への下り階段を見ていると自然と口の中が乾いてきた。素人が掘削したようなものではなく、石を削って階段や通路が作られている。誰かの悪ふざけで片付けられるような代物ではなかった。
「ついてくるがよい」
ルルが地下道の中に消えた。躊躇う気持ちもあったが、俺も後を追った。
俺が入ると、自然と蓋が閉まった。どういう仕組みかわからず、俺は戸惑った。周囲が真っ暗になったのもあり、軽くパニックだ。
しかしフッと息を吹く声が聞こえると、通路内が一気に明るくなった。
忘れていたが、ルルならどちらの所業も簡単にできる。普段から魔法を使わないので、すっかり忘れていた。
明るくなっても気味が悪かった。俺は地下道というものに初めて入った。国内で一番栄えているのは俺らが住む王都だが、地下に空間があるなんて誰も知らなかった。むしろ考えたこともなかった。地下イコール死者を埋葬するくらいの認識しかなかったので、いい気持ちを持てなくても仕方がないだろう。今でこそ俺も慣れたが、何度も行き来してようやくといった様子だ。
しかしルルはスイスイと進んでいく。きっと何度もここを訪れているのだろう。もしくは怖いものがないか。
そういえば、ルルは怖いもの知らずだった。上級生に詰られた時も平然としていたし、泣いたのは一度しか見たことがない。
地下の通路は思ったよりも長かった。階段を降り、数百メートル歩いただろうか。一本道なので迷いはしないが、進むほどに不安になる。
もしや城壁の外に繋がっているのではと希望も抱いたが、外だと確信する前に一つの扉に行き当たった。今まではすべて石造りだったが、扉は木製だった。
こぶしを振り上げ、ルルはリズミカルに扉を叩いた。
ドン、ドドドン、ドン「あーそびーましょー」
こんな夜にふざけてるのか? いつにもましてルルが変な奴に思えた。
すると声が返ってきた。
「はーあーいー」