表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
ジュニア外伝 ~あれから次の旅立ちまで~
146/147

3、弟の反抗期

 従業員への対応はアーサーに任せ、アズールは家に向かった。


 道中の稽古場で三男ロベルトを拾い、ユムユムに会議に出るように伝えた。

 ちなみにユムユムはドルドネから交換留学している学生で、同い年のロベルトと一緒のカリキュラムで学んでいる。


 ユムユムに話をつけた後、アズールはロベルトとともに帰宅。

 居間に母と妹ミーナを集合させた。



「兄さん、どうしたの?」

 ミーナが不安げに尋ねた。

 勘がいい子だから、アズールの様子から何かを感じ取ったのかもしれない。


 何から話していいか迷ったが、今まで通り、あったことをそのまま話した。いい機会だから、魔王や一族についてもしっかり説明した。

 父から直接聞いていない部分もあったが、ルルやケンジャから聞いて知ったこともある。だからアズールが本来なら知らない情報も正確に伝えることができた。


 話が進むほどに、女性陣は泣き始めた。特に母は過呼吸になって、何度も話を中断させた。



 すべて話し終えた頃には母は虚ろな目をしていたし、ミーナも泣き疲れていた。誰も話す気力がなく、いつも活気にあふれた居間は静まり返っていた。


「噓だ」

 静寂を破ったのはロベルトだった。

「父さんが死ぬわけない。どうせ全部兄さん嘘なんだろ!」


 母もミーナも、困ったように顔を見合わせた。

 そしてアズールを見つめた。


 アズールは悲し気な表情を浮かべていたが、ちっとも動じていなかった。


「ごめんね」

「うるさい!」


 ロベルトは荒々しく立ち上がると、自室に閉じこもった。

 バンっと扉が閉じた後、ベッドに飛び込んだような激しく軋む音。その後に押し殺した嗚咽が聞こえてきた。ロベルトは人前で泣くのをよしとしない。だから泣いていることには誰も触れないようにした。



 ロベルトのことに驚いて、母もミーナも言葉を失った。しかし事態を理解してからは、またシクシクと泣き始めた。アズールだけが気まずそうに座っていた。



 それからどれくらい経ったのだろう。あまり時間が経ってないはずだが、空は夕焼け色に染まっていた。みんなロベルトが去った後のまま静止していた。


「ただいまー」

 ドアが開き、次男アーサーが帰ってきた。さっきまで泣いた痕跡は見えず、いつも通りカラッとしていた。


「お邪魔します」

 アーサーの後ろには同年代の女性──幼馴染で婚約者のホリィがいる。


「おかえりアーサー。ごめんねホリィ。今日はちょっと……」

 生まれた時から知っている顔とはいえ、突然の来客に母は慌てた。


「俺が呼んだんだ」

 アーサーが母を制し、ホリィと共に席についた。


 ホリィはアーサーの席に、アーサーは父の席に座った。他に席がないとはいえ、母もミーナも気まずそうだった。


「母さん、大事な話があるんだ」とアーサーは切り出した。

「お願いだから別の日にしてほしいんだけど」

「俺たち結婚するから」

「まあ、なんてこと!」


 母は飛び上がった。感情が限界突破したのだろう。アーサーとホリィを交互に見て、泣き出してしまった。


 ホリィがハンカチを差し出した。

「こんな時にごめんなさい。でも今こそこういう知らせが必要だって、アーサーと話したの」

「一人減ったけど、一人増えたから大丈夫だな」

「そういう問題じゃないでしょ! そういう問題じゃ……」


 母はおいおい泣き出し、言葉を続けられなかった。ミーナとホリィで母を慰める。だがきっと母は大丈夫だろう。目には希望が宿っていたのだから。



 その日の夜、家族はこれからについて話した。父の葬儀、当主交代に伴う手続きその他。やることはたくさんあった。

 家の行事はアーサーとホリィが執り行ったので、アズールは家族のメンタルケアに注力できた。しかしロベルトが反抗期に入ってしまったため、長男としてアズールはかなり手を焼いた。

 幸いにも、ロベルトの攻撃性はアズールにだけ向いていた。他の家族には冷たい程度だったので、それほど家の中がギクシャクすることはなかった。


 家の中が安定するまでアーサーとホリィが同居してくれたので、ロベルト以外は予想よりも早く立ち直ることができた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ