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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
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第四章④ 夜を楽しむ貧民窟ツアー

 賢者と呼ばれる人物に、俺はまったく検討がつかない。そんな高名な人がいれば、街の人が放っておかないだろう。先生と崇め奉られ、王宮で暮らしているはずだ。

 だが俺は賢者の名を聞いたことがないし、それに思い当たる人物も思いつかない。


 そんなことを考えているうちに、だいぶ歩かされた。そしてやってきたのが、昨夜ルルと会った場所。

 昨夜は「次ルルに会ったらぶっ飛ばす」と思っていたが、今日は手を引かれて連れ出されている。いやはや魔王も出るし、何が起こるかわからない世の中だ。


 昨日ルルと会った場所から一本通りを入ると、旧市街が広がっていた。

 旧市街というとレトロな雰囲気がして聞こえはいいが、実態は改築するほどの費用もない貧民窟。治安もよくないからと、旧市街の住人以外は滅多に立ち入らない場所だった。街を駆け巡るのが仕事の俺ですら、貧民窟に入ってすぐの雑貨店に時折納品するだけで、それから先に入ったことはなかった。


 そんな危険な一帯を、ルルは平然と歩いている。もちろんこの地区にルルの家はない。それなのに、勝手知ったる道かのようにスイスイ進んでいく。なぜ気味悪い場所でこんなに堂々とできるのか、俺には不思議でならなかった。


 ルルはどんどん進んでいく。奥へ奥へ。小さな路地に入るほどに、建物の劣化が進んでいく。最初は古い建物だったがどんどん貧相な建物になり、次第に建物と呼べないほどのあばら家になっていく。

 なんと薄気味悪いのだろう。しかも空の真っ黒さが加わり、薄気味悪さに拍車がかかっている。きっと昼にきても気味悪いだろうなと俺は思った。


 こんな場所、一刻も早く帰りたい。だが今ここで逃げ出しても、旧市街から抜け出せる気がしない。大人しくルルに従うしかなかった。


 もうこれ以上は道がないんじゃないかと言うほど進んで、ようやくルルは足を止めた。あばら家どころではない。はっきり言って墓だ。辛うじて建物に囲まれた中で、そこだけ土がこんもりと盛られていた。


「冗談じゃない!」

 疲れたし眠いしで、俺の我慢は限界を超えた。ついルルに怒鳴ってしまったが、わざわざ夜に連れて来られる場所でもない。


 俺が腕を引くと、ルルは不思議そうに尋ねた。

「どこに行く?」

「帰るんだよ」

 もちろん帰れる自信はない。だが例え明日の朝まで旧市街を彷徨ったとしても、こんな場所に一刻もいたくなかった。


「これからが重要なのだ」

「冗談なら人が怒らない範囲にしろ」

「父上に会いたくないのか?」

「!」俺の心臓が跳ねた。


 俺は父さんについて一切知らない。ただ昔に「蒸発した」とだけ聞いた。母さんが話したがらないし、大人は誰も父さんについて話さなかった。こんな人の多い街で、父さんを知る人がいないはずないのに。

 だから俺は幼心にも「父さんのことは聞いちゃいけない」のだと思っていた。


 そんな父さんについて、ルルは何を知っているのだろう。今まで何度も顔を合わせているのに、なぜ教えてくれなかったのだろう。俺の中で様々な感情がグルグルと巡った。


「これ以上賢者を待たせるのは忍びないのだが」

「……」


 結局俺は残ることにした。

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