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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
アーサー外伝 ~アズールの知らない話~
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2、試験に向けて

 秘密の会議が終わった翌日から、アーサーはてんてこ舞いだった。入っていた予定はすべてキャンセルし、アズールについて徹底的に調べた。


 こうなったら、なんとか試験で落とすしかないのだ。


 王宮内にアズールの知り合いがいないか詳しく探し、少しでも知っている人物全員に会いに行った。もちろん不自然にならないよう、他の入団希望者のことも一緒に尋ねた。



 知れば知るほど、アズールは有望な人材だとわかった。学業はイマイチだが、剣術も体力もピカイチ。もし彼に大役がないなら、ぜひとも迎え入れたいとアーサーは思った。


 ただ一方で、王国騎士団にはもったいない人材だとも思った。

 王国騎士団なんてカッコイイ言い方をしているが、実態は王族の護衛だ。建前では魔物や侵入者から民を守るために存在している。しかし本当の敵は国民で、暴動が起きた時に鎮圧するのが王国騎士団の役目なのだ。

 アーサーも入団してからその事実を知った。自分がトップになって変えてやろうと思い直して頑張ったが、トップとなった今でもその事実は変えられなかった。


 アズールなら、もっと別の方法で国を救える。それも、自分より偉大な方法で。だが今のままでは、彼は成績トップで騎士団に入団してしまうだろう。

 もし理由なく落とせば、大臣たちが文句を言うに違いない。すべての事情、そしてそれぞれの思惑がわかるからこそ、アーサーは複雑だった。


 アズールを最も穏便な形で落とすために。アーサーは日々奮闘した。



 聞き込みを始めた三日後、料理番のジャンという青年に話を聞くことができた。彼はアズールの幼馴染の兄である。彼はとっておきの情報をアーサーに教えてくれた。


 弟とアズールのことを話す時、ふとジャンがこう口にした。

「でも左側から近づくと、すぐ隙をつけるんですよね」


「左側だけ?」

 アーサーは鋭く斬り込んだ。


「はい。アズールは左目があんまり良くないんですよ」

「そうか」

 アーサーは一段と低い声で返した。


 それを聞いて、ジャンもまずいと思ったようで、早口で付け足した。

「目が悪いといっても、距離感が掴みにくいとかそんな感じで。だから全然戦えないとか、そんなことじゃないんです。不採用にはしないでやってください」


 アーサーは弱点を掴んだと思っただけで、視力自体を落選の理由にしようとは思っていなかった。実戦がほぼない王国騎士団では、大した落選理由にならないからだ。


 だからジャンのフォローを聞いて、アーサーは思わず笑ってしまった。

「大丈夫だ。騎士団の中には弱視もいるから安心してほしい。むしろ弱点を把握した上での戦い方を知っているなら、彼はいい騎士だ」

「ええ、俺は騎士じゃないけど、本当にそう思います」

 ジャンは安心したように笑った。この時、アーサーも数日ぶりにほっとした。



 それからのアーサーは準備に追われた。授業での記録を読み漁り、戦績を分析。アズールの戦い方の癖を覚えた。時には市内警備の名目で、アズールの実技授業を見に行った。


 もちろん試験制度も見直さなくてはならない。今年から騎士団長直々に試験に立ち会えるようにした。従来は模擬戦闘の見学だけで、騎士団長が受験者と剣を交わすことはない。その制度を変えて、騎士団長との一騎打ちを試験内容に組み込んだのだ。

 打診内容が届いた時は国王も大臣も驚いていたが、もっともらしい理由をつけて納得させた。


 すべては遺恨なくアズールを落とすため。後は当日のアーサーの手腕にかかっていた。


    ×    ×    ×


 ついに試験日がやってきた。眩しいほどの晴天で、太陽光が目に刺さるようだった。

 アズールにとっては、最高にやりにくい状況だろう。彼の不幸を喜んでいるようで心地悪いが、致し方ない。すべては大義を守るため。誤った道に進まないよう導くためだ。



 早朝、アーサーは王宮内の礼拝堂に行き、いつものように祈った。彼には毎朝の厳密なルーティンがある。身だしなみを整えたら礼拝堂へ行き、王都の平和を願う。それだけで、一日のはじまりが違うとアーサーは感じていた。

 この日も同じようにしていたが、ただ一言、穏便な問題解決を追加した。「アズールが無事不合格になりますように!」と。



 アーサーがここまで平和を願うのには、理由があるともないともいえる。どういうことかというと、なぜかわからないが、弱き者を助けるのが自分の使命だと思っていたのだ。


 アーサーの父は厳格な騎士で、息子にも騎士道精神を叩き込んだ。あまりの過激な教育に、普通の子供なら逃げ出したに違いない。

 しかしアーサーは、なぜか当然だと思っていた。そして鍛えてくれる父に感謝していた。


 他人から見たら、幼少期から父に洗脳されたせいだと思うだろう。しかしアーサーは父亡き後も騎士を辞めなかった。むしろ父がいないことで、ますます自分がしっかりせねばと決意を新たにしたくらいだ。


 アーサーは知らないだろうが、この国で誰よりも国と民の平和を心から願っている人物だった。


 王族たちの腐敗ぶりには落胆したが、自分で立て直そうと思ったのもその精神から来ている。現実として、一騎士にできることは限られているが、今日はまさに一騎士としてできる、最大限に重要な事項である。



──魔王から国を守れるのは、アズールしかいない。だからアズールを落として、彼の命の危機を回避せねば。


 礼拝を終えると、アーサーは試験会場へ向かった。

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