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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第十五章① 古の勇者よ、今ならその気持ちが超わかる。

 石造りの祭壇の前に、ノートが置かれている。そしてノートの上を、所在なさげにペンが彷徨う。


 リナは宙に浮いているペンを手に取り、その場で分解した。

「ごめんなさい、インク切れです」

 リナはリュックの中を探ったが、代わりのペンは見つからないようだ。


【じゃあ今日はこれで終わろうか。ちょっと長くなったし】

 どこからともなく声がした。ここにはリナの他には誰もいない。


「そうですね。明日も来ていいですか?」

【もちろん! 俺の声が聞こえる人間は珍しいから、いつでもいてほしいくらいだよ】

 今度はノートが嬉しそうに宙を舞った。そしてリナの手の内に落ちてくる。


 こんな怪奇現象が起きているのに、リナは平然としていた。そしてページをめくって、どこまで書かれたかチェックしている。



「ああ、でも現代人には魔力がないってところまでは書けてますね。次に来た時に終わりそう」

 リナの声に反応して、ぶー垂れる声がした。だがリナは文句に耳を貸さず、ノートをリュックに入れた。


【あーあ、君も来なくなっちゃうんだね。どうせ僕は見捨てられた神だよ!】

「何を言ってるんです。アズールさんの国は、いまや世界で一番の歴史ある国家なんですよ。そんな国の守り神が、見捨てられてるわけないじゃないですか」


 それを聞いて、祭壇に供えられた花束がかすかに揺れた。嬉しい時の合図だった。

【そんなに長く続いてる?】

「ええ。どこを見ても、二千九百年も続いた国なんてありませんよ」

【すげぇ! そんなに続いたのか】


 花束が嬉しそうにグルグル回転した。


「よっぽどいい神様が、国を守ってくれたおかげですね。羨ましい限りです」

【君はどこの出身?】

「この国の隣ですよ。多分、場所的にアズールさんの故郷と同じです」

【へえ、そっか】


 声は嬉しそうだった。嬉しさに浸っているのか、少し沈黙してから声が続いた。

【僕の故郷で生まれたから、君は魔力が高いのかな。これも運命のおかげだね】


 運命という言葉を聞いて、リナは表情を曇らせた。

「あの、インタビューとは関係ない話なんですけど」


 リナは許しを請うように宙を眺め、決意してから口を開いた。

「アズールさんって、指導霊は見えますか?」

【いや。それって人間霊か何か? 悪いけど俺、国外の人間霊は見えないんだよね】

「そうですか。指導霊とは、その人が成長できるように導いてくれる守護霊です。生きている人間に一人はいるとされています」

【へえ。そんな物好きな霊もいるんだ】声は興味なさげに答えた。

「私についている指導霊は、ジュニアさんです」

【!】



 室内がしんと静まった。張りつめた空気が、声の主の動揺を伝えているようだった。


 声の主が落ち着くまで、リナはひたすら待った。


【まったく。死んでからも誰かを助けるなんて、ジュニアらしいな】

「指導霊は徳が高い人間しかなれないと聞きます」

【ああ、ますますジュニアらしい!】


 声は笑っていたが、すぐに笑い声は収まった。


【ジュニア、そこにいるの?】

「はい。常に私と共にいます」

【そっか。これまでのインタビュー中もずっと?】

「はい。というか、インタビューするようにアドバイスしてくれたのは、ジュニアさんなんです。私が小説を書くと決めた時に、父さんに相談するといいって。そしてあなたの存在を教えてくれたんです」

【そうだったのか……】


 声は震えていた。まるで泣いているのを堪えているようだ。


「実は、ジュニアさんからあなたに、ぜひ聞いてほしいとお願いされたことがあるんです」

【何?】

「……もう解放されたくないですか?」

【どういう意味?】

「あなたは長きにわたりこの国を守ってきました。本来の目的を果たしたし、もう役目を終えてもいいんです。これ以上ここにいる必要はないんです。……ジュニアさんなら、天国へ行く方法を知っています。もう役目を終えて、先代の皆さんやご家族と、あの世で再会しませんか」

【……】


 声はしばらく何も言わなかった。


 答えがくるまでリナは待った。緊張に耐えられず、リナは何度も手汗を服に擦りつけた。



 そして声は告げた。

【まだいいかな】

 リナは目を見開いた。

「なぜです! もう楽になっていいんですよ」

【うーん。だって今ここでやめたら、みんなからこう言われるんじゃないかな】

「何て?」

【なぜあと百年頑張らなかったって!】


(終)

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