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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第十三章① さらばサザム、さらばジュニア

 ジュニアが落ち着いてから、俺たちは外へ出た。


 儀式自体はどこでもできるけど、儀式後の俺は当面動けなくなるらしい。守り神として安定すればケンジャのように移動できるが、当面はサザムとの戦いが待っている。誰かに邪魔されず、かつ俺が長年鎮座しても問題ない場所がいい。


 考え抜いた上、ジュニアは坑道を選んだ。ノコに案内されて、最初に行ったあの坑道だ。

 ノコに騙されたが、あの坑道はすでに枯れている。これ以上採掘する価値のない場所だし、誰も好き好んで行かないだろう。儀式後に入り口を閉じてしまえば、永久に坑道の存在を隠すこともできる。俺も納得した上で、ジュニアと坑道へ向かった。


 本来両目が見えない状態での山道は危険だ。だが俺の場合、魔力やエネルギーが見えているから、足元さえ注意すれば問題ない。しかも足裏から魔力を放出して身体を浮かせているから、歩くよりよっぽど安心だった。

 ジュニアが手を引いてくれたので、俺は岩肌に身体をぶつけないように注意するだけ。視界が閉ざされた状態でも難なく山登りができた。



 今の俺に日の光は見えないが、ジュニア曰く、西の空が少し色づいていた頃らしい。早くしないと完全に闇に包まれるだろう。ジュニアの帰り道が心配だから、さっさと終わらせねば。


 これから死ぬのは抵抗があるけど、でもまあ、どうせやらなきゃいけないんだし。だったらさっさと終わらせて、少しでもジュニアにとって最良の形で終えたいと思うのはせめてもの親心だ。



 ようやくたどり着いた坑道。その前には、サザムが待ち構えていた。


「ずいぶん面白そうなことを企んでいるじゃないか」

 明るい声だが、声には怒気がはらんでいる。当然だ。自分たちのピンチなんだから、黙って見ているつもりはないよな。



 もし俺がサザムなら、間違いなくジュニアを攻撃する。俺の弱点ということもあるが、ジュニアがいなければ儀式はできない。

 俺のような魔力が高いだけの人間ならいくらでも代替できるが、ジュニアのような人間は滅多に現れない。少なくとも俺が知る三百年の中にはいなかった。

 つまり今ジュニアを消すだけで、サザムは今後数百年の安全を保証されるのだ。こんなに楽なことはない。


 そのことはジュニアも気づいているようで、小さな声で俺に告げた。

「仕方ないからここでやる。僕のこと守って」


 そう言い終わるや、ジュニアを中心に膨大な魔力が渦巻き始めた。小さな精霊たちが渦に飛び込み、その勢いは増すばかりだ。


「小僧っ!」

 サザムは岩を動かし、ジュニアに向けて無数の岩の雨を降らせた。俺も魔力を使ってジュニアを防ぐ。


 今度は地盤を割って俺らを地の底に落とそうとしたが、俺とジュニアを魔力で浮かせた。


 焦っているのか、怒っているのか、サザムは派手な大技ばかり仕掛けてくる。怨念の消費量も凄まじい。しかし俺は思った以上に魔力を使わなかった。これまでの人生で散々魔力を使ってきたが、こんなに楽に魔力を操れたことはない。両目の視力を失った効果を今になって実感した。

 皮肉だなサザム。自分がやったことで、俺に力を与えるなんて!


「死ぬんだぞ! 正気かアズール!」

 他に手がないのか、サザムは言葉で俺を攻めてきた。俺の心につけ入る気なのが見え見えだ。


「ああ、正気だよ!」

「こんなことに命をかけて、くだらないと思わないか!」

「いーや、思わないね! 他でもない、息子のためだもんな!」


 それに俺はしっかり覚えてるぜ。サザムの次の身体として、ジュニアを狙っていること。

 これほど優れた身体だ。サザムが消滅しない限り、ジュニアは死ぬまで、いや死してなお身体を狙われ続けるだろう。そんなこと絶対にあってはならない。


 サザムは俺を動揺させようとしていたが、俺が動じないことで逆に自分が動揺していた。

 俺はその隙をついて、サザムの首に狙いを定めた。


「お前は安心して、俺と一緒に死んでろ!」


──プツリ。


 俺はサザムの頭部と身体を繋ぐ回線を切った。今の俺には人体内の魔力の流れも見える。どこを狙えばいいかなんて一目瞭然なのさ。


 攻撃の衝撃なのか、サザムの首がダランと垂れた。もう不自然なほどに。頭部と身体の接続を絶ったから、これで指一本動かせないはずだ。中身がサザムだろうと守り神だろうと、身体が動かなきゃ何もできない。

 さらに念を入れて、俺はサザムを谷底に落とした。さっき奴自身が作った谷底にな!




「終わったぞ」

 ジュニアに声をかけるも返事がない。見ると岩盤に座り、儀式を続けていた。ジュニアを包む魔力の渦は最大限に膨張すると、少しずつ小さくなった。そして、渦が小さくなるたびにジュニアのモヤが輝きを増す。その姿は神々しく、熱心に祈っているようだった。


──ああ。これがジュニアなりの戦い方なんだな。


 なんとなくジュニアの本質を見た気がした。そして、もう大丈夫だと思った。


 そう、もう大丈夫なんだ。

 俺が気にしなくても、ジュニアは立派にやっていける。

 アイツ自身の足で立って、前に進んでいけるんだ。

 だから俺がいなくても大丈夫。

 もう守ってあげなくても大丈夫なんだ。


 最後に声をかけようと思ったがやめた。そして俺は坑道内に入った。俺が長いこと鎮座できる場所を求めて。



 本来は真っ暗な坑道内だが、さまざまな魔力に満ちて鮮やかな色彩として映る。だから灯りなしでも問題なく進めたし恐怖を抱かなかった。


 俺はなるべく奥へ向かった。後世になって採掘されて、うっかり人目についたら面倒だしな。

 結局、偽ダイヤモンドがあった場所までやってきた。ここが最奥なのだ。尻がごつごつしたが、俺一人が座る分には問題ない。


 座り心地を確かめてから動きを止めると、不意に静寂が襲ってくる。坑道の中は恐ろしいほどに静かだ。無音かつ真っ暗な空間に一人取り残されたら、普通は発狂してしまうだろう。


 でも俺は幸か不幸か、坑道から発せられるモヤの色彩を楽しめる。こんなに心休める空間があるのかと、逆に至上の喜びを感じた。


 ジュニア曰く、俺は何もする必要がないらしい。ただ座っていればいいだけ。

 何もしていないせいか、特に何も変化を感じない。だから俺はぼんやりとモヤの煌めきを見ていた。


 ピンク、オレンジ、黄色、水色、黄緑。様々な色が揺らめき、重なり合う。そして一つの色になり始めて──

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