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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第十二章① ずっと隠していた罪悪感

 ジュニアの話は、いつもわからない。

 説明が下手とか喋りが聞き取りづらいとかじゃなく、俺の理解の範疇を超えるからだ。だから聞く人が聞けば理解できる内容なんだろう。

 最近ようやく話がわかるようになったと思ったのに、またもや俺はジュニアが理解できなくなった。



 俺が新しい神?

 いったいどうしてそんなことになるんだ?



 脳内は質問で渦巻いているのに、俺の口は何の言葉も紡げなかった。傍目にはショックを受けているように見えたのだろう。ジュニアが少し早口で伝えた。


「儀式で、人間を神様にするんだ。その儀式を僕がやる。国中どころか森羅万象の精霊たちから力を借りるから、精霊に愛された僕にしかできない。本当は僕が守り神になれればいいんだけど、この儀式は僕にしかできないんだ。父さん、ごめんなさい。そして新しい神になれる資質を持った人間は、父さんしかいないんだ」


 その話を聞いて、俺はぼんやりと思った。失明したのもこのためかと。おかげで魔力が上がったからな。

 サザムからしたら、強い怨念を吸うために俺を生かしておいたのだろう。失明した俺を憐れんで、ジュニアからも強い悲しみを吸うことができるしな。それがどうしたことか、サザムにとっての命取りになっている。

 すべては上手いように、運命に従って回っているのだと。



 そういえば、魔王を倒した夜に不思議な夢を見た。宇宙のように黒くて深い瞳を持った女神。そして、あの言葉。



──運命には逆らえません。受け入れることです。



 ああ、そういうことか。


 すべて合点がいった。


 運命とは、てっきり妻サアナとの出会いだと思っていた。俺たちの中では、かなり運命的だと思っていたからな。


 でも違った。俺にとっての運命は、サザムだった。


 思えばなんの因果か、繰り返し会っては最悪な目に遭っていた。そして今、この戦いが、俺とサザムにとっての最終決戦。しかし本当は三百年前に勃発した大虐殺の終結で、俺と先代たち、そして隣国の守り神との長きにわたる戦いの帰結だったのだ。



 少し話は変わるけど、実は一つだけ俺は人生に大きな負い目がある。

 それは俺だけが魔王封印の役目を引き継がなかったことだ。


 事情を知っているし修行もしたのに、俺だけがぬくぬくと生きてしまった。

 先代たちは自分の役目を全うすることに人生をかけた。だが俺が役目を知ったのも修行したのも魔王と戦ったのも、たったの一日。先代たちの覚悟を思えば、魔王を倒したといっても胸が張れなかった。


 そして俺だけが長生きすることにも罪悪感を覚える。

 先代たちが越えられない三十歳の壁を越えることに喜びを感じる一方、先代たちの無念を考えると心苦しくなる。


 この負い目は普段は心の奥深くに隠れていて、俺の心が弱った時にだけふっと現れる。

 そのたびに「俺は頑張った」「ここまでやってきた」と虚勢を張って、なんとか躱してきた。


 でも上手に受け流したのではない。逃げていただけなんだ。そしてこの思いは抜本的に消えることなく、枷となって俺を縛り続けていた。

 だから俺は自らの事業を頑張ったし、子どもたちにも因縁とは無縁の生活をさせた。社会的に成功したことを言い訳にして、ジュニアたちに引き継がないことで不都合な事実もろとも抹消することを選んだんだ。



 でも、本当の意味で、今終わりを告げることができる。ただし、俺の命を犠牲にして。


 簡単に神になると言っているが、要は死ぬことだ。人間である自分を捨てるのだから。そして守り神として永続的にこの国に留まることになる。

 自宅にも実家にも帰れない。家族にも会えない。ケンジャのように町を徘徊してもいいが、当分はサザム消滅のために力を使うことになるだろう。新米守り神である俺に、そこまでの余裕はない。


 きっと俺に余裕ができる頃には、どんなに早くても孫が老衰しているレベルだ。最初から会えないと思った方がいい。そして、家族が死んでも俺は死ねない。ずっとこの国に留まるのだから。


 死後に先代たちや父さんに会う希望も消えた。本当は、俺が死んだら天国に皆で集まって、魔王の祝勝会を開きたかったんだけど。それも無理なのか。無理なのかぁ。




 目の奥がじんわり痛む。行き場を失った涙が暴れているようだ。ジュニアに悲しみを悟られないことだけが、今は救いになっている。これ以上泣いたら、ジュニアの眼球がすっかり萎んでしまいそうだからな。


 こうして言葉にすると長いけど、これは一瞬のうちに巡ったこと。そして一瞬で思いは決まった。変だろ、こんな話、一週間悩んでも速すぎるくらいなのに。でも俺は一瞬で決めたんだ。


「いいじゃないか、やれよ!」

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