第十一章② 知られざるジュニアの真実
俺が起きると、ジュニアが荷物を整理していた。
「ジュニア?」
「父さん、おはよう」
「おはよう。何をしているんだ?」
「帰るんだよ」
「どこへ?」
「もちろん僕たちの家にさ」
ジュニアが片付ける手を止めた。
「こんな国、もう出よう」
ジュニアなりに決意したのだろう。魔力を通して真剣さが伝わってきた。
「なあ、昨日のことを教えてくれよ。じゃないと、またこの国がひどい目に……」
「関係ない!」
ジュニアが声を荒らげた。俺が記憶する限り、初めてのことだった。
「どんなにこの国が大変だからって、父さんがひどい目に遭うことはないよ!」
ジュニアは俺に抱きついた。
「もう嫌だよ。僕もう耐えられない」
俺はジュニアをなだめるように、頭を撫でてやった。ジュニアは涙を噛み殺しているのだろう。泣くのを我慢するような、押し殺せない呻きが口から洩れていた。
「本当は僕、知ってたんだ」
少し落ち着いてから、ジュニアが口を開いた。
「何を?」
「この国で起こること」
「……」俺は何と返したらいいかわからない。
「父さん前に言ったよね。『これからどうするんだ』って。僕さ、自分がどうするかわかるんだよ。自分に関すること限定だけど、ちょっとだけ未来がわかるんだ。精霊たちに教えてくれるのか夢で見るのかわからないんだけど、いつの間にか『ああ、こうなるんだな』ってわかるんだよ。嘘だと思う?」
「いいや」
精霊と話せる以外に特殊能力があったとしても不思議ではない。驚きはしたが、疑う気持ちは一切起きなかった。
「僕は古き神を殺して、この国に新しい守り神を招く役目があるんだよ」
へえ、そうだったのか。そうであれば、ジュニアがサザムを殺すことになる。俺には止める手立てが思いつかなかったが、ジュニアならサザムを止められるだろう。最悪の事態は免れたわけだ。
「すごいじゃないか。だったらこの国から逃げる必要ないだろう。さっさとアイツを封印すればいいんだから」
俺は褒めたつもりだったのに、ジュニアの悲しみは深まった。
「父さんはそう言うけどさぁ。それができないから困ってるんじゃないかぁ!」
ジュニアは子どものように泣いていた。
何か失言があったか?
それとも、そんなに大変なことなのか?
まあ、神を殺すだなんて、誰でも躊躇するよな。特に精霊たちと交流していたジュニアから見れば、なおさらだろう。
「ごめんな。軽く考えて。頑張ろう、な。父さんにできることがあれば、何でもするから」
最後の一言で、ジュニアの泣き声は一層大きくなる。
ああ、もう本当にわからない。
すっかり持て余し、俺はジュニアが落ち着くのを待った。
ある程度喋れるようになってから、ジュニアは途切れ途切れ教えてくれた。
「どうやって古き神を殺すか。父さんは知ってる? 新しい神と力比べして、相手が守護する領域を奪うんだ。そして相手へ魔力を送り、存在自体を消滅させる。本当は力比べに負けた時点で追い出せるんだけど、今回は特殊だからさ。消してしまわないと、また戻る恐れがあるからね」
「じゃあ新しい神ってのを連れて来ればいいんだろ。父さんも一緒に探してやるよ」
「……」
ジュニアはチーンと鼻をかんでから続けた。
「新しい神ってのは、父さんだよ」