表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第1部】はじまりの旅が始まらない
13/147

第四章③ 俺がルルを無下にできない理由

 何かと思い見上げると、牛よりも大きな鳥が迫っていた。

 なぜ接近に気づかなかったかというと、その怪鳥は「隠密鳥」と呼ばれる獰猛なハンターで、飛ぶ時に限りなく音が出ないらしい。普段は上空で牛を品定めし、狙いをつけるとサッと降りて掴みかかるそうだ。


 魔獣が人里に現れることは滅多にない。だが唯一現れる例外魔獣が怪鳥だ。

 翼を持つがゆえに、市街地にも現れることがある。しかし怪鳥も警戒しているので、よほどのことがない限り、人を襲うことはない。


 そんな怪鳥が目の前まで迫っていた。滅多なことが起こったのだ。疲労と恐怖で、俺たちは動けなかった。ただ恐ろしいかぎ爪が自身に向かっているのが見えた。



──あ、ダメだ。



 そう思った瞬間、ズシンと体が重くなった。


 かぎ爪の接近が遅く見える。なんというか、そこだけ重力が強くなったような印象だ。

 肺が狭くなったのか、空気が思うように吸えなかったのを覚えている。


 だがそう感じたのもほんの一瞬。重いと思った直後に重みは消え、体も元のように動いた。呼吸もスムーズにできた。


 重みが解けた直後に、怪鳥は空へ舞い戻った。まるで天敵を見つけて怯え逃げるように。

 残された俺たちはその場にへたり込んで泣いた。その声が届いたのか、少し経って大人たちがやってきて、俺らを保護した。

 怪鳥の出現に引率騎士は警戒していたが、怪鳥は戻ってこなかった。以来その牧場に、二度と怪鳥が現れなくなったという。


 怪鳥の恐怖にばかり目が向き、何が起こったのか考える者はいなかった。

 怪鳥には知能があるので、遊びとして襲ってきたのだろうと誰もが結論付けた。


 だが俺はルルのおかげだと思っている。

 なぜならルル一人が泣かなかったからだ。俺たちと離れていたから、標的にされていなかったのはわかる。だが子供なら、巨大な鳥の出現に誰もが驚くものだ。まして接近してくるのだから、怖くないわけがない。


 だがルルは表情一つ変えていなかった。俺はそんな様子のルルに気づき、抱きついた先生越しにルルを観察した。するとルルは無表情でピースを向けた。何を考えているかわからない奴だが、何を言いたいのかはすぐにわかった。


 だから俺は今でもルルを邪険にできずにいたのだ。

 大人になった今ならわかるが、あんなことができるほどの魔導士はそうそういない。


 本来魔力は誰にでもあるらしいが、俺らの世界では「一種の才能」として扱われている。目がいいとか耳がいいの一種に「魔力が高い」は位置づけされ、魔力が低い人にはまったく理解できない世界でもある。


 ただ多少は感じることができるから、高い魔力を感じると誰もが反応できるというわけだ。


 俺の魔力は高くない。母さんの魔力は高いから、俺は平均やや上くらいだろうか。

 そんな俺ですら魔力は感じる程度だし、一切使えない。だがルルの魔力は誰もが感じられた。

 ほぼ魔力がないハインツだって、あの時は体に重みを感じたと言っていた。

 さらに力で優劣を決める怪鳥でさえ、一瞬の魔力で逃げ出すほどである。魔力が高めのヨークは震えて声が出せなくなっていた。


 それほどにルルの魔力は稀有なものなのだ。ただ本人は大したことないような顔をしているが。


 そんなルルが「賢者」と呼ぶ人に、これから会いに行く。いったいどんな人だろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ