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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第七章② もうこれでハッピーエンドでいいじゃん(え、ダメ?)

 今まで気づかなかったが、ジュニアは滝のような汗をかいていた。

「疲れたー!」

「だらしないな」

 一方の俺はいたって元気。ピンピンしている。


 ジュニアは信じられないと言わんばかりの表情で、俺を見ていた。

「父さんが化物なんだよ。普通、こんなに魔力を使ったら死んじゃうよ!」

 ジュニアは息を切らし、もう立ち上がれないといった様子だ。


 そんなジュニアのもとへ、どこからともなく精霊たちが集まってきた。そしてジュニアの上に乗ると、次々に魔力を送り込んでいる。もちろんジュニアは頼んでいない。


 ああ、こいつは本当に精霊たちに好かれているんだな。こうして助けてもらっているんだな。

 きっとジュニアや精霊たちにとって、お互いを助け合うことは何気ないことなんだろう。だが、この何気ないやり取りが、両者の信頼の深さを如実に表していた。



 俺は湖から水を汲んだ。といっても器がないから、魔力で水を丸めて球体にしただけだが。ジュニアに渡すと一気に飲み干し、大の字になって寝転がった。


「そんなに疲れたか?」と俺。

「むしろなんでそんなに元気なの?」

「まあ、鍛え方が違うってやつよ」

「魔王との戦いって、そんなに凄かった?」

「まあな。でも今思えば、修行の方がつらかったな」

「なんで?」

「ずっと絞られてる感覚がするんだ。あれは慣れなかったな」

「はは、よくわかんないや」

「まあ、お前も修行すればわかるよ」


 話していて気づいた。ジュニアに修行の話はしていない。それなのに、なぜ知っているんだろう。


 まあ、精霊が見えるジュニアだから、とっくにケンジャに会ったり、ルルから聞いたのかもしれない。でも俺からは何も教えてないから、俺個人が体験したことは何も知らないのだ。もっと大きくなったら伝えようと思っていたが、そういえばちゃんと話していなかった。ジュニアの一年後すぐにアーサーも成人するし、さらに翌年にはロベルトも成人する。その時一緒に教えればいいと思っていた。


 どうせ帰る途中にルルを迎えに行くから、アーサーニュに着いたらすべてを話そう。ケンジャのことも、ルルのことも。そして先代たちや魔王のことも。俺が知ってるすべてを伝えようと、この時に決意した。



 ジュニアはしばらく立てそうにないので、そばに座って俺も休んだ。


 ふと一息ついて、俺は違和感を覚えた。



──まだ終わっていない。



 気づいた途端、全身に鳥肌が立った。


 何かがおかしい。確かに、町を覆う怨念はキレイサッパリ消えた。しかしその「キレイサッパリ」というのが、ありえない話なのだ。


 そもそも怨念は、人間の負の感情から生まれる。例えば歩いていて、ふと嫌な気分になるような、そんな些細なことでも微量の負のエネルギーが生じる。よほど強い感情でない限りはすぐに霧散して消えるが、強い負の感情はなかなか消えない。時間をかけて、怨念へ進化し、蓄積されていく。


 ここが陸の孤島ならば話は別だが、バーハタの首都である。アーサーニュより少ないが、多くの人が生活する場だ。そんな場所では必ず微量の負の感情が発生し、町中を漂っているものだ。



 精霊たちは人の心まで浄化したわけではない(それは力を貸した俺が一番よく理解している)から、浄化後に生まれる負の感情や怨念までは消えない。

 だから今、わずかにでも負の感情や怨念が漂っていないのは、異常な状態だった。生きている限り発せられるもので、絶対に根絶できない。怨念とは、そういうものだった。



 嫌な予感がした。

 もし怨念が消えたのではなく「消えたように見えた」だけだったら?


 敵はあのサザムだし、俺が怨念を狙うことは予想できただろう。俺に怨念を消す術がないとしても、大事な力の源をみすみす奪われるようなへまはしない。

 俺だったら相手が怨念を消せると想定し、カウンターとして何か仕掛けるだろう。俺だったらどうする?



 答えが出た瞬間、俺は立ち上がった。


「どうしたの?」

 ジュニアは恐ろしいものでも見る目で俺を見た。ああ、今の俺はよほど険しい顔をしていたに違いない。


「おい、守り神はどこだ?」

「え?」

「コイツか?」


 俺は祠を指さした。違うと言わんばかりに、ジュニアもポワポワたちも首を横に振った。


「くそっ!」

「父さん、どうしたのさ?」

「はめられたかもしれん」

「何が?」

「もしかしたら、思っていたよりよっぽど深刻かもな」

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