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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第六章⑤ 俺、しっかり<父親>をやれてるかな…

「やはりそうか」


 俺は思ったほどガッカリしなかった。

 だって起きた時から薄々気づいていたから。



 魔力とは生まれ持ったもので、個人差がある。先天的な資質であるため、増減することはない。(呪術師など、他から魔力を持ってくる場合は除く)

 俺と魔王と戦う時に修行したが、あれもケンジャという守り神の支援があればこそだ。また魔力の使い方を学んだにすぎず、生来の魔力総量が変わったわけではない。


 だが実は、後天的に魔力を上げる方法が、一つだけ存在する。


 それが身体的欠損。何かを失った時、その欠損部を補うように魔力が増大するという。ただし生まれ持った魔力が低いと増加後の魔力も大した強さにならないため、多くの人が欠損しても無自覚なままである。

 しかし魔力を生業としている者なら、その影響は大きい。そして欠損は、五感を失うほどに強くなる。身体だけでなく、魔力が五感も補うからだ。


 俺の場合、生まれつき左目の視力が弱かった。だから持って生まれた魔力も高かったのだろう。

 そして今、完全に左目の魔力を失った。生来の魔力がさらに高まったため、精霊が見えるようになったのだろう。もしそうであれば、先ほど見えた空気に色がついている現象も説明できる。

 今まで意識して見ていた魔力の流れが、意図せず見えるようになっただけなのだ。


 ただ、左目を失っただけで、これほど魔力が上がるとは思えない。もっと他に何かを失ったはずだ。


 矢を抜いてすぐにジュニアが治療してくれたが、多分治し切れなかったダメージが脳に残っているのだろう。

 もちろんジュニアを責める気はない。本当に一生懸命に頑張ってくれた。おかげで今はあまり痛くないし、本当に感謝している。

 ただ、俺は自分が思っているよりも重傷だったという事実を、今になって噛みしめているというだけだ。



 俺が何も言わずにいると、ジュニアは続けた。

「幸い急所は外れてたけど、あの矢には毒が塗ってあって。僕も頑張って回復させたんだけど、父さんを死なせないだけで精いっぱいだった。本当にごめんなさい」


「いや、お前は何も悪くないよ」

 なんて言葉をかけていいかわからなかったが、ジュニアの自分を責める発言は見過ごせなかった。

「精いっぱいやってくれたんだろ。ありがとな。むしろこうして生きてられるのは、ジュニアのおかげだよ」


 ジュニアはまた俺に抱きついて、わんわん泣いた。

 俺はジュニアを抱きしめ、背中を撫でてやった。




 ああ、昔もこんなことがあったな。何回もあった。


 くだらないことで泣いて、何度も慰めたな。


 泣いた顔も泣き声の出し方も、子供の頃とまったく同じなんだ。


 慰めながら、笑っちゃったよ。ジュニアが本気で泣いているのにさ。俺の顔が見えないのをいいことに。だってこんなに身体が大きくなっても、まだまだ子供なんだぜ。何歳になっても、ずーっと俺の子供なんだよ。


 そのことがわかったらさ、俺は今泣けないよな。親父なんだから。子供の前で泣いちゃいけねぇよ。親が泣いたら子供が心配して、ますます不安になっちまうから。


 最初は笑ってたけどさ。だんだん顔がひきつっていくのが、自分でもわかったよ。顔はくしゃくしゃになったけど、声だけは震えないように我慢した。嗚咽が漏れないように我慢した。


 もし泣いてることがバレたら、ジュニアは自分を責めちまう。ジュニアに変な心配をさせちまう。


 本当、俺の顔が今ジュニアに見えなくて助かったよ。


 俺が頑張って耐えたからさ、ジュニアはこの時に俺が泣きたかったなんて気づかなかっただろうな。


 でもさ、それでいいんだ。それでいいんだよ。


 それが親父の威厳ってことでさ!




 ひとしきり泣いたジュニアは、やっと俺から離れた。

 涙を手のひらで払って、ぐいっと手の甲で鼻水を拭った。そして小さくもう大丈夫と呟いた。


「あとさ、犯人は取り逃がしちゃった」ジュニアが申し訳なさそうに呟いた。

「いいって。どうせ目星はついてる」

「見たの?」

「なんとなくな」


 実はあの時、俺の目は一瞬だけ矢を射た人物を捉えた。はっきり見えたわけではないが、それでもわかる。サザムだ。こんなことするの、奴しかいない。


 どうせ最後にノコが出てきたのも、俺らを油断させるためだろう。そして世話係としてノコをつけたのも、俺の弱点を探るためだ。呪術師たちを倒しているうちに俺の戦闘データを集めて、ノコで最終確認させたんだ。

 ノコとの戦いで俺の弱点を確信した後は、俺に隙が生まれるのを待った。俺が「成功した」と油断する、その瞬間まで。


 まさか島で戦った時の戦法を、そのまま返されると思わなかったよ! 呆れて笑えてくる。



「そうだ!」俺は突如思い出した。

「怨念はどうなった?」

「まだ何も」

「あれからどれくらい経ってる?」

「えっと、まだ三十分くらいかな」

「ばか、もう三十分だろ! ほら、早く怨念を払いにいくぞ!」


 飛び起きた俺は、ジュニアを引っ張って無理に立たせた。


「うかうかしてたら、また何かされるからな!」

「もう、父さんって本当にこっちの気持ちとか無視してくるよね!」

 文句を言うジュニアだったが、涙に濡れた顔は嬉しそうだった。

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