第六章③ 石塔をぶっ壊せ(お父様マジのピンチ編)
塔を壊すごとに、呪術師たちは弱体化していく。塔がなくなったことで精霊たちは解放される。
中には怨念を払うだけの強大な力を持つ精霊もおり、解き放たれた時から、自主的に怨念を払いだしたのだ。怨念は精霊にとって心地悪いものだからな。すべてを取り払うことはできなくても、自分の周りだけならすぐに浄化できる。少しずつ怨念が消えていくことで、呪術師の怨念による恩恵が消えてしまった。
つまり戦いほどに敵は弱まり、俺たちに追い風が吹くってことだ!
三つ目の西の塔へ向かう道中で、俺はジュニアと合流した。
ジュニアはすでに六つの塔を破壊してきたらしい。俺が二つ倒している間に三倍倒すとか、いくらなんでも早すぎるだろう。
そう思ったが、今はのんびり話している暇はない。俺とジュニアは最後の塔の破壊に向かった。
俺たちの前途を祝すように、雨も上がった。
西の塔がある場所は、郊外にある道路。入り組んだ路地の途中、T字路の真ん中にドンと構えていた。術式による建立だと知らない住民にとっては、邪魔でしかない代物である。
そんな塔の上にノコが立っていた。
「困るんですよねぇ」ノコは面倒くさそうに言った。「観光でもしてくださいとお願いしたじゃないですか」
「約束はしていない」
被り笠を脱ぎ捨てながら俺は言った。
するとノコは鼻で笑った。
「私、こういうのは苦手なんです。だから速攻で終わらせてもらいますね」
次の瞬間、ノコが消えた。いや、高速移動したのだ。そして俺の左側から現れた。
──まずい!
生来左目の視力が弱い俺にとって、左からの攻撃は弱点。防御するにも攻撃するにも、反応が遅れてしまうのだ。
やられる。
そう思ったが、現れたノコは瞬時に吹っ飛ばされた。
見ると後方にいたジュニアが右手をノコに向けていた。めいっぱいの魔力を放出し、ノコを吹っ飛ばしたのである。
そしてその強大な魔力を、今度は塔に向けた。
俺が塔に駆け寄ると。塔は完全に機能を失っていた。そしてノコは失神しており、ピクリとも動かない。
まさか強引に力技でねじ伏せるとは。
俺にできないこともないが、相当量の魔力がないとできない芸当だ。この国に来てから、ジュニアのイメージが変わってばかりいるな!
「父さん、焼き印」
俺が驚いている間に、ジュニアはテキパキとノコを縛り上げた。
俺は焼き印を用意すると、ノコの手のひらに押し付けた。この時ばかりはジュニアも嫌そうな顔をしていたが、それ以外は実に淡々としたものだった。
さて、これで塔はすべて破壊したし、呪術師も封印した。あと何人いるかわからないが、塔がなくなったことで大幅に戦力ダウンしているだろう。俺たちの敵ではないはず。
「ジュニア、この次はどうするんだ?」
ジュニアを見ようと、俺は顔を上げた。
その時だ。左の視界に何かがあると気づいた瞬間、左目に激痛が走った。
「ぐあぁ!」突然の衝撃に、俺はのけぞって倒れた。
左目が痛い! 左目に触れると、細長い何かが突き刺さっている。
「父さん!」
ジュニアの叫び声。俺を見下ろしているが、ジュニアの姿が正常に見えない。右目ではちゃんと見えているが、ジュニアの左半分が見えない。極端に狭まっていた。
「動かないで!」
ジュニアが左側に消えたかと思うと、グッと身体に力が加わった。
自分の喉から声にならない叫びが飛び出た。
再び視界に映ったジュニアは何かを持っていた。
右目でしか見えないが、見える範囲でもそれが矢だとわかった。