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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第六章② 石塔をぶっ壊せ(お父様無双編)

 毒手マンがポケットから抜き出した両手は、肘から下が青紫に変色している。長年にわたる毒の影響で、肌の色が変わってしまったらしい。


 だが、残念だな。俺はそこまで弱くない。


 俺は毒手マンの口の中に、魔法薬を転送した。かつての対サザム戦で使った、あの手法である。

 激高した毒手マンは自らが薬を飲まされたことに気づかず、俺に向かって突進してきた。


 俺は奴をかわしながら、塔に近づく。他二人も俺を警戒し、次々と技を繰り出してきた。



 一人は幻影使いか。怨念から生み出した魔獣の幻影が、俺を襲ってくる。こいつはさしずめワンコくんといったところか。

 もう一人は無数の針を出現させ、俺に向かって針の雨を降らせた。以下、こいつは俺の中では針野郎だ。


 え、なんだか余裕そうだって? そりゃそうだ。俺の方が圧倒的に強いんだから。


 何もしていないように見えるだろうが、俺は全身を自分の魔力で覆っている。そうすると、俺より弱い魔力は通用しない。確かに幻影を作るのも針を作るのも、大量の魔力を必要とする技だ。(まあ、奴らの場合は魔力プラス怨念だが)でも針一本ごとの魔力は低いし、幻影に至っては触れた途端に魔力を流し込めば消滅してしまう。

 つまり俺の敵ではない。


 適当に敵をいなしていると、突然奴らの動きが止まった。そして北の方を見ている。


 ああ、ジュニアがやったのか。


 どうやら北の塔を破壊したようだ。

 奴らが止まった瞬間に、俺はこの町の空気が軽くなったのを感じた。奴らは不快そうな顔をしていた。奴らを取り巻く怨念が、少し減っている。


 それから間を置かず、毒手マンが倒れた。魔法薬が効いたのだ。他二人が気を取られた瞬間を狙い、俺は奴らの口の中に魔法薬を転送させた。

 二人は気づいて吐き出そうとしたが、残念。粉末だから唾液に溶けて、今頃胃に向かって流れているところさ。



 奴らが慌てふためいている間に、俺は塔へ到達。ありったけの魔力を注いでやった。ワンコくんと針野郎のあっけにとられた顔は、今でも笑えてくる。


 手が触れた箇所から、清涼な突風が吹き出した気がした。そして漂う心地よさ。見かけ上、町には変化が訪れていない。しかし空間が浄化されたというか。なんとなくマーリマリの町を覆う陰鬱さが消えて、さっきよりも呼吸が楽になった気がした。

 魔力封じの塔がすべてなくなれば、一体どれだけの清々しさを味わえるのだろうか。この国の人たちの今までの苦労が偲ばれる。



 だが余韻に浸ってる暇はない。


 俺は奴らを拘束し、縄で縛り上げた。他の二人も強烈な眠気に抗えず、ろくに抵抗を受けることなく捕縛できた。

 これで終わりじゃない。俺はポケットから鉄製の判子を出した。これで奴らに焼き印を押し、魔力封じの紋を刻むのだ。


 正直、残酷だとは思う。でもここまでしないと、奴らは何をしてくるかわからない。必要悪だと割り切ることにした。ちなみに、昨夜ジュニアと一緒に作ったので、アイツも持っている。そして見つけた呪術師には、片っ端から焼き印を押すことになっていた。


 雨が降っても、魔力で熱するから関係ない。真っ赤になった焼き印を、奴らの手のひらに押した。ジューっという嫌な音。肉が焼ける臭い。幸い三人とも起きなかったが、ビクンと身体が大きく跳ねた。


 こんなことをして、本当にすまない。でも争いを終えるには、争う双方の戦意を喪失させる必要がある。俺らは戦う意志がなくても、相手に戦う意志があれば終わらないからな。

 だからどんなに残酷でも、こうするしかなかったのだ。



 俺は三人を広場に転がし、次の塔へ向かった。雨は、奴らの焼き印を冷やしてくれる。起きる頃には腫れや痛みが多少は引いているだろう。道中、俺は自然の恵みに感謝した。



 中央の塔を破壊した俺は、北西にある塔を目指した。ここからは反時計回りに塔を破壊していく。


 北西の塔には、筋肉隆々の男がいた。以下、俺の中では肉太郎と呼んでいる。

 どうやら肉太郎は武闘派らしく、接近戦をご所望らしい。執拗に俺との距離を詰めようとした。きっと呪術で筋力を強化したんだろう。全身に気色悪い入れ墨が彫ってあった。


 だが残念。俺が距離を詰めたいのは、お前ではなく塔。

 肉太郎をかわすふりして塔に近づき、俺は魔力を流し込んでやった!


 振り返れば、ここが一番楽だったな。もしジュニアだったら、肉弾戦に苦戦したかもしれない。しかし俺は、こう見えても王国騎士団志望。戦闘には自信がある。それにロベルトに付き合って剣の稽古をしたおかげで、三十歳を前にした今でも健在だ。

 敵ながらつくづく相手が悪かったな! まあ、こいつが北の塔にいなかったのは、俺たちにとっては幸運だったが。

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