第六章① 石塔をぶっ壊せ(お父様ピンチ編)
翌朝。よく晴れた、朝から気持ちのいい日だった。こんな日は家族と一緒にちょっと遠出したいと思ったが、そうも言っていられない。大事な決戦の朝なのだ。
俺たちは食堂に行き、質素な朝食を食べた。するとノコがやってきた。
「おはようございます」
「何しに来たんだ」
俺はノコを睨んだ。
「朝からやめてくださいよ。さすがに食事を邪魔するほど無粋な真似はしません。昨日も申しましたでしょう、店に迷惑をかける気はないって。この店は私のお気に入りでもあるんですからね」
店員が注文を取りに来たが、ノコは断った。今日は隣に座らず、俺たちを見下ろすように突っ立ったままだ。
「座ったらどうだ」俺はノコを促した。
「いえ、忠告に来ただけです」
「忠告?」
「馬鹿な計画はやめた方がいいですよ。愚かなことはやめて、観光でもして遊んでいてください。余計なことは考えない方が身のためですよ」
「嫌だと言ったら?」
俺が尋ねると、ノコはニッコリ笑って店を出た。何も言わなかったが、その笑みがすべてを物語っていた。容赦はしない、と。
しかしこちらも容赦するつもりはない。でなければ、バーハタは呪術師に支配されたままだ。精霊は土地に恵みや祝福をもたらす存在だが、彼らがいないと不毛の土地になる。つまりこのままでは、バーハタは衰退してしまうのだ。再び立ち上がったこの国を、そんな悲惨な目に遭わせてはいけない。今度こそ悲劇は止めないといけないのだ。
話は変わるが、ここで俺たちのプランを紹介しよう。
魔力封じの塔は、全部で九つ。要となる中心の塔を囲むように、八つの塔が並んでいる。ジュニアが北から時計回りに塔を破壊し、俺は中央の塔を破壊した後に、北から反時計回りに塔を狙っていく。
中央の塔は他の塔を制御している都合上、頑丈に造られている可能性が高い。また、一番壊されたくない塔であるため、他より警備が厚いだろう。複数の呪術師たちが待ち構えているはずだ。
そこで実戦経験と一度に放出できる魔力量を考慮して、中央の塔は俺が担当することになった。(ジュニアの方が魔力の総量が多いが、使用上限は俺の方が高い。悲しいかな、先代たちとの修行のおかげだ)
一人でも負ける気はしないが、何が起こるかわからない。過信せずいこうと入念に用意を整えた。
ちなみに、分散せずに二人で一つずつ塔を破壊した方がいいと思うだろう。確実なのはそっちだ。
だが敵が何人いるかわからない以上、スピードがものをいう。一つ壊したそばから修復されれば、いつまで経ってもこの戦いは終わらない。だから悪手と知りつつも、別行動になったのだ。
ありがたいことに、雨が降ってきた。雨脚は弱いが、特に用もない人間を家の中に押し込むには十分な雨量である。往来の活発なメイン通りも、今は閑散としていた。
「まさに恵みの雨だね」とジュニア。「僕はもういいよ」
「ああ、いこうか」
民宿から借りた被り笠を頭に乗せると、俺たちはそれぞれの決戦場所へ向かった。
× × ×
中央の塔がある場所は、マーリマリ最大の広場になっている。普段は子供が走り回ったり行商人が無許可で店を広げるなど、生活臭漂う空間だった。しかし今は人影はなく、ザァッと雨が降る音が響くばかり。
いや、誰もいないわけではない。俺が広場へ入ると、塔の陰から三人の男が出てきた。
奴らの魔力を見ると、やはり怨念をまとっている。町中に怨念が豊富に漂っているため、術を使い放題な奴らは、雨避けのおかげで全身カラッと乾いていた。俺なんて首から下はびしょ濡れなのに。
まあ、こちらの分が悪いことは重々理解できた。
「おっさん、よした方がいいぜ」
一人の男が俺に近づいてきた。ポケットに手を入れ、いかにも俺を舐め腐った態度だ。
奴は両手先に怨念を集中させている。何か企んでいるのはすぐにわかった。どうせ毒手だろう。こいつのことは毒手マンと呼ぶことにした。
「何の話だ?」俺はとぼけてみた。
「は? ふざけんなよ」
毒手マンはさらに鋭い目つきで俺を睨んだ。塔付近にいる男が「やめとけ」と声をかけたが、毒手マンは止まらない。
「俺たちに面倒かけんなって言ってんだよ、おっさん。じゃないと殺すぞ」
「はは、お前なんかに殺されないよ」
思わず笑ってしまったが、それが毒手マンの逆鱗に触れたらしい。よくわからない奇声をあげて、俺に飛びかかってきた。