第五章③ 魔術師vs呪術師、決戦前夜
ジュニアが言うにはこうだ。
首都であるマーリマリを中心に、国土全域にまで及ぶ、強固な魔力封じが施されているらしい。それによって、この国の精霊すべてが弾圧されているというのだ。
なぜそれがわかるかというと、マーリマリの随所に魔力封じの塔が見られたから。先ほどジュニアから「あれを見て」と言われた塔は、その魔力封じの塔というわけだった。
魔力封じなんてしたら、呪術師も不利になるだろう。そう思ったが、奴らは基本的に魔力が低い。使うたびに怨念を魔力に変換しているから、日常生活では一般人に等しく、また、魔力封じを跳ね返す術式を身体に施しているはずとのこと。
言われれば納得で、敵ながら非常に練られた効率がいい方法だと思った。
ちなみに俺たちが魔力を使えているのは、高出力じゃないからだそうで。一定量の魔力を使うと、塔に魔力を吸収されるそうだ。
「でもちょっと待て」一つ気になることがある。
「その精霊はどうした。俺には見えないけど、そこにいるんだろ? 封じられてたんじゃないのか?」
「僕が解放したんだよ」
「いつ?」
「坑道から戻る時に。近くの谷で泣いてたから、僕の力を与えたんだ」
ジュニアは自分の肩に目を向けて微笑んでいた。多分精霊と「ねーっ」なんて言っていたんだろうが、俺にはまったくわからん。精霊に関することは、俺には理解できない領域だった。
「多分あの塔は町の八方位と中央で、全部で九つあると思う。中央が要で、八方位がそれぞれの国土を封じてるはずだ。全部を壊せば、この国の精霊たちが解放されるはずだよ。それから精霊たちに力を貸して、バーハタ全体の怨念を払ってもらうんだ。どうかな?」
「塔を壊すって、物理的にか?」
「魔力的に壊さないと意味ないよ。でも簡単さ。こっちの魔力を流し込めばいい。父さんがフルパワーで魔力を流せば、あっという間に壊れるよ」
「そんなもんなのか?」
「父さんって、時々自分のことわかってないよね」
息子ながらこの発言にはイラっときたが、ここで喧嘩しても仕方ない。大人だからと、俺はグッと言葉を飲み込んだ。
それにしても、こいつはいったい何を知っているんだろうか。どんな世界を見ているのだろうか。頼もしいと思いながらも、我が子ながら恐ろしいと思った。そして何より、自分の頼りなさに落ち込みを隠せなかった。
だが俺の心情はさておき、これからやるべきこととして次の三つが決まった。
1、魔力封じの塔を壊す
2、精霊に力を流し込む
3、怨念を払い、弱体化した呪術師たちを倒す
2の精霊に力を貸す方法だが、ジュニアが知っているので一任する。
呪術師の倒し方だが、まず奴らを縛り上げ、強制的に魔力封じの紋を刻む。呪術で扱う力はほぼ怨念だが、怨念を変換するためにも多少の魔力は必要だ。だから奴らの魔力自体を完全に封じてしまえば、俺らの勝利となる。
基本的に術式は、施した術者より弱い者の影響を受けない。だから俺やジュニアが施した魔力封じは、現実的に解除不能。残酷だが、一生魔力を使えない体になってもらう。まあ、魔力が使えたらろくなことをしないから、平和のためには仕方ないことだけど。
気づけば、周囲はすっかり暗くなっていた。思い出したように灯りをつけ、お互いの顔を見た俺たちは、思わず笑ってしまった。
「時間がかかっちゃったね」とジュニア。
「いや、思ったより早く話がついてよかったよ。お前のおかげだな」
俺の言葉を聞いたジュニアは嬉しそうだった。
それから俺たちは夕食を食べに食堂へ出かけ、戻ると早めに休むことにした。作戦決行は明日。少しでも体調を万全にしないといけない。
「きっと奴ら、僕たちの話を聞いているよ」
ベッドに入ってからジュニアが呟いた。
「だから全力で妨害してくるはず。今はゆっくり休まなきゃ」
「だったら夜に襲ってこないか? 寝てる時が絶好のチャンスだと思うが」
「大丈夫。何かあれば、この子が教えてくれるよ」
ジュニアは枕横のスペースをトントンと叩くと、すぐさま寝息を立ててしまった。寝つきのいい奴だ。あまりにのんきに眠っているから、俺も気を張るのはやめた。
いずれにせよ、明日は大変な騒動になるだろう。眠れるうちに眠らなければ。