第五章② 【朗報】息子の悪癖、ついに理由が判明
「サザムを倒すしかないね」ジュニアが単刀直入に切り出した。
「多分だけど、ノコみたいな仲間がたくさんいると思う。一人ずつ倒すより、リーダーを討った方が何倍も早い」
「それはわかるが、どうやってアイツを倒す?」
俺がこの町の魔力を見た限り、そこらじゅうに怨念が渦巻いている。住人たちからもごく微量だが怨念が発せられている。そもそも町全体から怨念が立ち上っているのだ。三百年前に殲滅された恨みが、今も残っているのだろうか。過去の行いの残忍性を思い知り、改めて取り返しのつかないことをしてしまったと実感した。しかし、過去の行いはどうしようもない。
まぁそれはさておいて、問題はこの町、いや、この国で戦ったら、サザム率いる呪術師軍団がかなり有利だということだ。相手が一人ならいざ知らず、向こうがチームでいる以上、俺たち二人で挑むのは危険だった。
「一つだけ方法があるんだけど」ジュニアはモジモジしながら言った。
「なんだ、そんな方法があるなら早く言え」
「でも、父さんが信じてくれるか不安なんだ」
ジュニアの言葉を聞いて、俺は驚いた。これまで信じなかったことなんてない。ただ突拍子もないジュニアの思考が読めず、理解できないことも多いが。
「安心しろ。お前のことは信じているさ」
「本当?」
「こんな嘘ついてどうする」
俺が笑って見せると、ジュニアも安心したように笑った。その笑顔には幼少時の面影がある。こんなに大きくなったのに、まだ子供なのだと実感した。
「父さんは精霊って信じる?」
精霊とは、魔物の対をなす存在。神聖なものとして、神の使いや何かを守護する存在といわれている。絵本に載っているから知ってはいるが、俺は今まで見たことはない。まあ、魔王が出現した時に散々魔物を見たので、精霊も信じていないわけではないが。
「まあ、いるだろうなって思うけど」
「精霊に怨念を浄化してもらおうと思うんだ」
確かに、魔物とは真逆の神聖な力を持つ精霊なら、怨念を払うこともできるだろう。人間にできない強大なこともやってのけるはずだ。
だがこのプランには問題がある。
「いいとは思うが、どうやって精霊に頼むんだ?」
「僕から頼むよ」
「そんなことできるのが?」
「ほら、信じてない!」
ジュニアに指さされ、俺は言葉に詰まった。しかし、常識的に考えて無理だ。相当魔力が高い俺でも精霊が見えないし、先代たちも見たことがない。これまで精霊に会ったという話は聞いたことがないし、俺は妖精が絵本にしか出てこない存在だと思っていた。
「僕が今まで精霊と話してたの、知ってるでしょ」
「あっ、よくブツブツ言ってる怪しい独り言か!」
ジュニアが音楽を奏でながら、誰かと喋っているのを思い出した。
「ひどい、そういう目で見てたんだ!」
「仕方ないだろ。俺にはそうとしか見えないんだから」
「そっか。まあ、そうだよね」
ジュニアは悲しそうだったが、すんなりと納得していた。
ちょっと考えてから、ジュニアは自分の右肩を指さした。
「じゃあやっぱり、この子も見えないんだよね?」
俺には何も見えない。ただ宙を指さしているだけだ。
「父さんでも、見えないもんなんだね」
「無茶を言うな。見える方が少ないんだから」
「だよね。みんなもそう言ってた」
ジュニアは笑って自分の右肩に向かって微笑んだ。まるで誰かが乗っているとでも言わんばかりに。
「で、精霊にお願いできるのか?」
「うん、それは大丈夫。精霊たちも苦しんでるから、喜んで協力してくれると思うよ」
「だったら、今すぐにでも頼んでくれ。というか、そんなことができるなら、精霊たちもさっさと怨念を払ってくれればいいのに」
俺が言うと、ジュニアは大きなため息を吐いた。
「できるもんなら、してるに決まってるじゃない」
「じゃあなんでやらないんだ?」
「アイツらに封じされているからさ」