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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第四章① 喜ばしくない再会

 さも買い物に行くというような調子で、俺とジュニアは民宿を出た。

 宿の人は俺らに興味がなく、すんなりと脱出できた。観光してると言わんばかりにキョロキョロしながら町を歩く。ノコに見つからないために観光を装っていたのだが、町の人は誰も俺らを気に留めない。こちらが不安になるほど、他者に無関心なのだ。

 そんな町の雰囲気を不気味に思ったが、これ幸いとばかりに俺らは町の出口へ向かった。



 町を出ると、俺らは全速力で逃げた。足裏から魔力を放出させ、飛ぶように前へ進んだ。おかげで山道もスイスイ進める。ジュニアは俺より魔力が高いから、初めてでもすんなり飛べた。


 ここ数日ヒイヒイ言いながら登った道を、何倍もの速度で進む。今は魔力を出し惜しみしている場合ではない。一刻も早く橋へと向かわなければ。とにかく俺の国へ戻ろう。アーサーニュなら、ケンジャやルルという味方もいる。少なくともこの国に二人でいるより何倍も安全だ。


 身を隠すものがない岩山では、見つかるリスクは高い。だが新月のおかげで周囲は暗い。誰にも見つかることなく、俺たちは逃げることができた。



 夜通し走ったため、空が白む前に大渓谷の陰が見えてきた。

 このまま真っ直ぐ進めば、大吊り橋に辿り着く。何も問題ないはずなのに、進むほどに違和感を覚えた。

「父さん、なんだかおかしいよ」

「とりあえず行ってみよう」


 そのまま進んだ俺たちを待ち受けていたのは、絶望だった。大吊り橋がないのである。いや、元々はあった。だが切り落とされて、今では縄の切れはしと支柱しか残っていない。

「誰がこんなことを……」

 縄の端には、鋭い刃物で切られた痕跡がある。明らかに誰かが故意に橋を落としたのだ。


 両国の往来は少ないが、バーハタの民が海を目指すには、この橋を通るしかない。バーハタの南・北・西の三方は陸地が広がっているため、海に行くにはかなり遠回りする必要がある。もっとも簡単かつ短期間で海へ行くには東方へ進むしかなく、この大吊り橋は最も海に近い橋。そんな貴重な橋を落とす理由は、どう考えても思い浮かばなかった。


「仕方ない、別の橋から戻ろう」

 かなりの遠回りになるが、北方に向かえば別の橋がある。山を越えるのですぐには行けないが、魔力で飛べば短時間で行けるだろう。



 俺は地図を取り出し、経路を確認した。広げた瞬間、地図中央が真っ黒に焦げた。黒い円はみるみる広がる。俺は地図から手を離した。支えを失った地図は一瞬で灰になり、風に乗って消えた。目で灰を追うと、そこには人影。高い岩の上に、この世で最も見たくない人物が立っていた。


「サザム!」

 俺がその名を呼ぶと、奴はケタケタ笑いながらこちらに近づいてきた。


「久しぶりだな、アズール様」

「ふざけるのはよせ」

「おいおい、お前めっきり老けたな。まあ、お互い様か」

 サザムと会うのは十五年ぶりだ。だがサザムはちっとも老けておらず、なぜか十五年前の若々しい姿を保っていた。ただ目だけが異様にぎらついている。その微笑みの胡散臭さにも磨きがかかっていた。


「コイツはお前の仕業か」

 俺は橋を指さした。

「その橋だけじゃない。他の橋も全部谷底に落としてやったよ」

「何が目的だ」

「そう怒るなって。久しぶりの再会だろ」

「俺はお前に会いたくなかった」

「奇遇だね。俺もだよ」


 俺たちとの距離が五メートルに近づいた時、サザムは立ち止まった。そしてジュニアをジロジロと見ていた。狩りの最中に子ウサギを見つけたような目つきが、俺の気に障る。


「そいつ、お前の息子か」

「まあな」

「初めまして。お父さんの大親友だよー」

 まったくふざけた挨拶をしてくれる! 怒鳴ってやろうと思ったが、ジュニアは俺を押しのけて前に出た。

「初めまして。父がお世話になっています」

「お前と違って、いい息子を持ったな!」

 褒めているようで、その声は嘲笑に満ちている。魔力で谷底にぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、俺とサザムを遮るようにジュニアが立っているため、実行できない。


「一つ質問してもいいですか?」とジュニア。

「おう、いいぜ。何が聞きたいんだ、お坊ちゃん」

「いつまで居座る気です? こんなことしても意味ないって、とっくに気づいているのでしょう。馬鹿な真似はやめませんか」


 ジュニアの声の迫力に、親ながら驚いた。こちらからジュニアの顔は見えないが、サザムの表情はみるみる歪み、憎々しげに俺たちを睨んだ。


「先にお前を殺してもいいんだぞ!」

「ええ、ご自由に。今ここでできるなら、ですけど」

 ジュニアの答えに、明らかにサザムは戸惑っていた。そして俺たちに背を向けた。


「ふん、まあいいさ。本気になればいつでもいけるっていうのを忘れるなよ」

「そうですか」涼しげにジュニアが言った。

「まあ、お前たちは俺たちの虜だ。こんなところで悪あがきせず、元の民宿でも使え」



 それだけ言うと、サザムは風のように走り去った。きっと俺たち同様、足裏から魔力を放出して走り去ったのだろう。


 追うべきかと身構えると、ジュニアがサッと手を出した。

「今はやめた方がいいよ」

「なんで?」

「僕たちの準備が整ってない。相手の都合がいい所におびき出されて、一歩的に嬲られるだけだよ」


 確かに、俺たちはバーハタを理解していない。もしサザムがずっと前からこの国にいて、綿密に計画を組んでいたら、まんまとおびき出される形になっただろう。砂を嚙む思いだが、ここは思いとどまるのが正解だった。


「しかしどうする? 高台に行って、一気に魔力を放出してジャンプすれば越えられるか?」

「いや、無理だよ」

 俺が尋ねる前に、ジュニアが手のひらを大渓谷に向けた。そして魔力で光球を作ると、大渓谷めがけて発射した。


 夜闇の中に煌めく光球は、谷の中ほどまで来ると爆発した。


「おいおい、どういうことだ」

「魔力に対して、強力な防御壁が張られている。多分大渓谷に沿って、全域に張られているだろうね」

「どれだけ魔力があれば、そんな大規模なことができるんだよ……」

「きっと長年かけて、よっぽどの準備をしたんだろうね」

 そういうジュニアは、どこか遠い目をしていた。

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