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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第三章① 息子に論破される日

 ジュニアはけだるそうに起き上がり、ベッドの上で胡坐をかいた。そして何から話そうかと、少し悩んだ。


「お前はずいぶんノコを疑っているんだな」

 ジュニアと向かい合うように、俺も反対のベッドに座った。


「疑うどころじゃないよ。とんだペテン師さ」

「なぜそう思う?」

「まずさ、考えてみてよ。こんなおかしい話、有り得ないって」

「そりゃあ俺だって疑ったさ。でも見ただろ、あの宝の山を!」

「それが有り得ないんだよ。よく考えてみなよ。石炭とダイヤモンドが一緒に出るわけないでしょ」


 俺は言葉に詰まった。なぜならジュニアの言う通りなのか、わからなかったからだ。


 確かに、俺に知識を授けてくれたアズール六世は無類の鉱物マニアだ。だがその知識は、あくまで分類や収集専門。採掘までは詳しくない。だから俺も採掘について尋ねられると、答えに困るのだ。だからこそ専門家に分析させ、偽物じゃないか鑑定してから考えるつもりだった。



「石炭ってさ、原料は木だよ。古代の樹木が死んで作られるんだから、あそこはかつて地表に出てたってことになる。でもダイヤモンドは地中で形成されるんだよ。高温で高圧な環境じゃないと作れない。これを聞いても、炭鉱からダイヤモンドが出てくるって思う?」


 俺は答えに詰まった。言われてみれば、そんな気がする。六世の知識を一つずつ結びつけていくと、ますますジュニアの説が正しいように思えた。



「でも、見ただろ。あのダイヤモンドの数々……」

「あんなのまやかしだよ」

 ジュニアは鞄からげんこつサイズの石を取り出した。


「何だ、これ?」

「父さんがもらった、あの石だよ」

 ジュニアが出した石はダイヤモンドを含まない、ただの石だった。


「これをどう見れば、ダイヤモンドの原石になるんだ?」

「まあ、見ててよ」



 ジュニアは石を握りしめると、目を閉じた。俺には何をしているかわからないが、とても集中しているようだ。数秒後に手の中の石から煙が立ち上り、石全体が煙で覆われ、煙が消えてまた石が見えた頃には、ただの石がダイヤモンドの原石へと変化していた。


 俺が呆然としていると、ジュニアは石を手渡した。受け取って、角度を変えて何度も眺めたが、どう見てもあの時ノコからもらったダイヤモンドの原石だった。


「おいおい、どういうことだ。いったい何をしたんだ?」

 俺の慌てふためく様子を見て、ジュニアは声を上げて笑った。

「変化させたんだよ」



 ジュニアは平然としているが、とんでもないことだ。見た目を変化させる術は、確かにある。対象物に術式を刻んだり膜を張ることで、見え方を変えるのだ。だが見た目を変える術は、膨大な魔力を必要とする。まして物質自体を完全に変化させる術なら、術者は命を落とすレベルだ。学術熱心なポートでさえ禁忌とされ、研究してはいけない術に分類されていた。


 そんな術を、今ジュニアは俺の目の前であっさりとやってのけたのだ。俺は驚くとか以前に、信じられなかった。

「馬鹿なことを言うな!」

「疑うんなら割ってみなよ」

 俺は採掘用のハンマーを取り出し、原石を割った。石は綺麗に真っ二つに割れたのだが、どちらもダイヤモンドの原石だった。


「そうか、原石に幻影の魔術をかけて、ただの石に見せてたんだろ」

「父さんだって見てたでしょ。今この場で、石をダイヤに変えたんだ」

「できるはずない!」

「僕にはできるんだよ。そしてノコにもね」

 ジュニアがピンっと指をはじくと、原石はただの石ころに戻った。


 俺はますます事態が理解できなくなった。



 だが、一つだけ至急確認しなきゃいけないことに気づいた。


「じゃああの金はどうした。原石を売ったっていう金は」

「ああ、あれは単なるレンズ豆だよ。同じ要領で、金貨に変化させたんだ」


 やられた! 確かに、俺は加工したダイヤモンドを見ておらず、翌朝ジュニアから金を受け取っただけだ。確実にあれを売ったという証拠はない。ジュニアから受け取った時に金貨を数えたが、その場ではまったく違和感がなかった。今その金は妻に預けているため一枚もこの場にない。

 ジュニアの言うことを確認できないが、もしその話が本当だったら。家族の誰かが間違って支払いに使い、贋金扱いされて逮捕されるのではないか。俺は一気に肝が冷えた。


「ああ、安心して。出発してすぐに変化が解けただろうから、今頃母さんたちは驚いてるさ。『なんで豆なんか大事にしまってるんだろう』ってね」

 ジュニアはケラケラ笑った。まあ、帳簿に書くまでは売上高には手を付けないから、ポートに着くまではレンズ豆による不正支払いはなかったはず。安心材料を確保できたら、どっと汗が噴き出てきた。


 それにしても、さっきから「とんでもない」の連続だ!

 ジュニアの言うことが本当ならすべての辻褄が合うが、現実的にありえない。俺は混乱した頭を必死に整理して、ジュニアに尋ねるべきことを探した。


 俺がしばらく黙っていると、ジュニアは口を開いた。

「父さん、その石の魔力を見てみてよ」

「魔力?」

 基本的に、無機物には魔力がない。魔力を込めた道具は別だが、魔力とは生物特有のものだからだ。


 変なことを言うなと思いつつ、俺は石の魔力を見てみた。そして愕然とした。

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