表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
107/147

第二章② 若いって素晴らしい。

 朝がきて、俺たち家族はそれぞれの旅立ちを迎えた。


 家族が馬車に乗り込むのを見送ると、俺とジュニアは東地区の下宿へ向かった。

 早朝にも関わらずノコは準備万端で、俺たちを見るやいなや、大きく手を振った。


「アズール様、お待ちしておりました。この度はありがとうございます」

 ノコは折れ曲がらんばかりに頭を下げた。


「いや、こちらこそありがたい話に感謝してるんだ。どうか頭を上げてくれ」

 俺に促されて頭を上げたノコは、ニターッと微笑んでいた。この男は時折、生理的に受け付けない表情をすることがある。まあ仕事上であれば、気味が悪いからといって切り捨てられるものではないが。


 だがジュニアを見て、ノコの気色悪い笑顔が一瞬消えた。


「あの、失礼ですが、他のご家族様は?」

「ああ、帰らせたよ。商談の邪魔になったら悪いからな」

「滅相もない。観光気分でいらしてくださって構わないのに」

「今回は突然決まった視察だしな。正式に商談となったら、また訪問させてもらうよ」

「ああ、そうですね」


 ノコはさっきと変わらない満面の笑みを、ジュニアに向けた。

「息子さんですか?」


 ノコの問いに、ジュニアが頭を下げる。

「お邪魔させていただきます」


「いえいえ。こちらこそご足労いただきありがとうございます。それにしても、美しい息子さんですね。そんな女性のような細さで、これからの山道に耐えられるか心配です」

「ご心配なく。これでも頑丈ですので」

 そんなこんな言いながら、俺らはアーサーニュを出発した。



 マーリマリまでの道のりを説明すると、まずアーサーニュを南下し、二股に道が分かれている場所まで行く。右は俺たちが来た港町クルスに繋がっているが、左に行くと隣国バーハタに繋がっている。


 しばらくは平野が続くが、次第に山道になり、そのうち大渓谷が現れる。


 大渓谷は南北に渡っており、俺たちの国とバーハタを隔てる国境になっている。しかし自由な交易のために往来制限がなく、警備や関所がない状態だった。


 大渓谷には所々に吊り橋がかかっているのだが、アーサーニュ近くではこの道上にある大吊り橋のみ。他の吊り橋から行こうとすると、北方にそびえる山を越える必要がある。ちなみに南方にいくほどに割れ目が広がるため、大吊り橋以南は吊り橋がない。


 ちなみに大渓谷を越えると、そこはすぐ山。バーハタの国土は七割が山地で、慣れない場所から行けば、すぐさま迷ってしまう。

 だから実質、バーハタへの道は大吊り橋を越える一つの道しかない状態だ。


 大渓谷を越えて一昼夜歩けば、バーハタの首都マーリマリに辿り着く。ちなみに、この首都マーリマリが、かつての惨劇の舞台。魔王誕生に至った場所であるのは言うまでもない。



 アーサーニュから大渓谷前の山道までは、馬車を使って移動できる。しかし道中のほとんどが山道だ。だから俺たちは行けるところまで馬車で行き、途中から徒歩でマーリマリを目指した。順調であれば、約五日にマーリマリへ到着する予定だ。



 さて、ジュニアは線が細くてひ弱な見た目をしているが、身体能力は低くない。ノコの心配をよそに、誰よりも涼しい顔で山道を歩いていた。


「父さん、何か持つよ」

 俺が疲れたと思うと、ちょうどよくジュニアが声をかけてくる。


 最初は断っていたが、倍の荷物を担いでもスタスタ歩く息子がたくましく見えた。ありがたい反面、つい「その体力と思いやりを、もっと仕事や恋人に向けてほしい」と思ってしまった。口を開くといらぬ発言をしそうだったので、必要最低限の会話に留めた。まあ、話しながら山道を歩く余裕がなかったのもあるけど。


 アーサーニュから大渓谷までは約二日、さらに三日かけて山間部のマーリマリを目指す。


 初日は平野を進むので楽だったが、馬車を降りてからは苦労の連続。


 二日目の夕方、大渓谷に辿り着いた頃には、もう両足がパンパンだった。大渓谷を越えた後の方が、険しい道のりになる。二日目は余裕をもって、早めに休むことにした。(まあ、ジュニアだけ平気そうだったけど)


 都会育ちのジュニアは、野営に慣れていない。テントを張るのも一苦労で、俺はジュニアから目が離せなかった。ついつい手を貸してしまうのは、子供の成長にとってよくないと思う。


 でも手伝うたびに、ジュニアは顔を輝かせた。


「すごいね父さん。物知りなんだね」

 こう言われると、悪い気はしない。計らずも旅行中の五日で、ジュニアには野営方法を伝授していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ