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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第二章① 息子の態度が悪くて困っています。

 この夜、家に帰ってから、隣国のバーハタに行くことを家族に告げた。そして将来的なアーサーへの事業譲渡と、実家への移住を告げた。


 突然の決断だが、妻のサアナは理解してくれた。まあ俺がいつもこんな感じだから、ちょっとのことでは動揺しなくなったんだけど。


 母さんは俺が戻るかもしれないと、今から大喜び。子供たちも大きなビジネスチャンスを喜んでいた。特にアーサーは、自分が大きな仕事を任せてもらえるんだと身震いしている。


 だが、たった一人。ジュニアだけが浮かない顔をしていた。


「父さん、その人から何かもらわなかった?」

「ああ、例の原石がここにあるぞ」


 俺はジュニアに原石を手渡した。その大きさに、家族はどよめいた。女性陣なんて、さぞ立派なダイヤモンドの指輪が作れると、ウットリしていた。


 しかしジュニア。手にするなり、ポイっと原石を投げてしまった。まるで臭いものでも捨てるかのように。慌ててロベルトがキャッチしたので、石は割れずに済んだ。動体視力がいい息子がいて、本当に助かった。


「何するんだ!」俺は叱った。


 しかし、ジュニアはちっとも悪びれない。

「これ偽物じゃないの?」


「俺だって疑ったさ。でも残念ながら本物だ」

 俺も同じことを思ったさ。だから道中宝石商に持ち込んで鑑定してもらったし、自分でも鑑定してみた。だが何度見ても、誰が見ても、答えは「本物」と出た。


「ふーん」

 ジュニアは何か言いたげだったが、何も言わなかった。ただ原石にはしゃぐ家族を、冷ややかな目で見つめるばかり。


「まあ、そういうわけだから、俺は祭りが終わったらバーハタに行くからな。お前たちは先に帰っててくれ」

「えー! お父さん一緒に帰らないの?」とミーナ。

「ポートで急ぎの仕事はないし、このまま行った方が早いしな。なに、すぐに帰るよ」

 俺は娘の頭を撫でた。大きくなったのに、お父さんっ子なところが可愛くて仕方ない。


「父さん、これもらっていい?」

 ジュニアが原石を回収した。原石を見ていた弟たちは不満そうだ。


「偽物をどうするつもりなのさ」アーサーが皮肉をこめて抗議した。

「売るにしたって研磨した方がいいでしょ」


 加工する分には価値が上がるし、俺もアーサーも文句が言えない。許可すると、ジュニアは原石片手に出かけた。


「じゃあ僕、今晩は戻らないから」

 なんて言ったジュニアは、本当に翌朝まで戻って来なかった。まあ、もう大人だし、フラッといなくなることは、自宅のポートにいた時も多々ある。だからどこか遊びに行ったんだろうと、俺も家族も深く考えずにいた。



 祭り期間はあっという間に終わった。祭り最終日の夜、俺たちは出発の準備を整えた。母さんは寂しそうにしていたけど、マーリマリから帰る時に寄ると告げたら、幾分嬉しそうにしていた。


 どうせまたアーサーニュに帰るのだからと、ルルは実家に置いていくことにした。ルルは毛を逆立てて反発していたが、ジュニアが何か告げたら黙った。アイツ、ネコのニャーニャー声で会話できるから、ルルに何を言ったのか俺にはサッパリ理解できない。どうやってなだめたんだろう。後から何度も聞いたが、いつも知らないニャーとふざけるだけだった。


 あと、意外だったのが、ジュニアがマーリマリに行きたがったこと。そもそもはアーサーを連れて行こうと思っていた。事業計画をアーサーに作らせたり、俺とアーサーどちらが適任かなど、視察しながら判断しようと思っていたのだ。だが祭り最終日の夜に、ジュニアから行きたいと言い出した。


「いったいどうしたんだ?」

 ジュニアは商売に興味を示したことがない。というか、俺が手掛けるものにはことごとく興味がないようだったのに。


「今マーリマリに行くことが、僕の使命なんだ。きっと役に立つから。お願い」

 素直に頭を下げられると、何も言えない。それに何より、ジュニアが俺の仕事に興味を持ってくれたのが嬉しかった。ようやく自立心が芽生え、自分の仕事を持つ気になったのか。そう思うと、快諾するしかなかった。


 まあ新支部の立ち上げはいつかまた機会があるだろうし、無理にアーサーを連れて行く必要はない。事業の見通しだって俺が立てればいいんだから。それに俺の代理として今の仕事を引き継ぐ方が、本人にとって大きな学びになるだろう。


 さっそく俺は委任状を書き、アーサーに託した。これで俺が戻るまで、事業の全権利はアーサーに移る。アーサーは宝物でも受け取るかのように、おぼつかない手つきで書状を受け取り、大事に鞄にしまっていた。いつもはこまっしゃくれているのに、なんだか初々しくて可愛いと思えた。一方、可愛げのない成人した長男は、ろくな荷造りもせずにルルを撫で回していた。


    ×    ×    ×


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