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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第一章④ 一年ぶりのアーサーニュ

 母さんに迎えられ、実家に入る俺たち。俺家族プラス母さんで、総勢七人には狭いが、この狭いのがまたいい。成長した子供たちとギュウギュウにくっついて過ごせるのは、今となっては珍しい機会だ。


 というか、成人した長男次男は、そろそろ実家帰省について来ないかもしれない。毎年「これが最後」と思いながら過ごしている。

 まあ、長男も次男もおばあちゃん大好きっ子だから、今年も普通についてきたんだけど。でも嫁さんができれば変わるだろうな。だからやっぱり、毎年「これが最後」と思うようにしている。



 お茶を飲みながら、俺たちはお互いの近況を話した。こんな他愛もない時間が、この年になると心地よくて、かけがえのないものに思える。


「僕、ちょっと出かけてきていい?」

 ひとしきり再会を喜び合った後、ジュニアが席を立った。


「いいけど、どうした?」俺は尋ねた。

「ちょっと街にご挨拶に行くんだ」

 と言って、ジュニアはギターを手に取った。

「一年の練習の成果を聞かせにね」


 ギターを聞かせるようないい人がジュニアにいるのかと驚いた。まあ、あの子の年齢だと結婚してもおかしくない。そういう相手がいても自然だろう。


「私も行きたいです!」とロベルト。「街を見に行ってもいいですか?」

 ロベルトは完全に騎士団目当てだろうな。王国騎士団はなくなったが、街の有志によって自警の騎士団が結成されている。彼らが例年通りにパレードを行うため、その準備を見たいのだろう。これまで毎年見ているのに、本当によく飽きないもんだな。


「まあ、いいけど。ジュニア、ロベルトの面倒を見てあげなさい」

「うん、わかった。行きましょう、殿下」

 そう言って、ジュニアはロベルトをくすぐった。


「うわっ、このっ、やめろバカ兄貴!」

 ロベルトは身をよじってジュニアの手から逃れると、一目散に部屋を飛び出した。


「俺も行ってこよーっと!」

 混乱に乗じてアーサーも部屋を飛び出した。出店をチェックして、期間中に一番儲ける店を予想するのが彼の楽しみ方だ。


 まったく、三兄弟でも楽しみ方が全然違うものだ。


 ちなみに、末っ子ミーナはおばあちゃんのお茶が大好きで、ハーブの調合を聞いていた。女性陣はお喋りしながら料理するのが帰省中の楽しみなのだ。


 さて、そうすると、俺は余ってしまう。だがやることは多い。まずは墓参りして、それから旧友たちに顔を見せないと。女性陣が盛り上がっているのを横目に、俺も部屋を出た。もちろんルルも一緒にな。



 街の雰囲気は祭一色。誰もが春の到来を喜び、魔王が消えたことを喜んだ。

 元々、魔王討伐を祝したことが発端の春光祭だが、再来した魔王(俺が倒した奴ね!)を倒したことで、より祭りに勢いが加わった。


 そういや、俺が勝手に城壁を消したから、最初は住民たちに恨まれるかと思ってたんだ。だって街にとっては大幅な防御力ダウンになるからな。

 でも街から不満はでなかった。当たり前すぎて馴染んでいたが、知らず知らずのうちに住民たちは鬱憤をため込んでいたらしい。「城壁は魔王と共に消え去った」として、むしろ解放されたことを喜んでいた。

 元々大人しかった国民性は開放的になり、この十五年のうちにでダンスが一般化したらしい。春光祭の最終日は、みんなで踊り明かすのが新しい通例となっていた。


 そんな街の陽気を味わいながら、俺は巨大な花束を買った。ようやく一人で持てるほどの大きさだけど、先祖二十一人分と考えると、これでも小さいくらいだ。


 アーサーニュに戻ったことで活力を取り戻したルルは、久々に俺の頭の上に乗った。最近は元気がなくて、もっぱら俺の懐に納まるのが精一杯だ。頭上に懐かしい重みを感じながら、俺は旧市街地を歩いた。


 城壁がないせいで日光が差し込むようになった旧市街地からは、かつての不気味さが消えた。メイン通りに比べれば人気は少ないが、それでも多少の人目はいる。俺は誰にも見つからないように注意しながら、地下への階段を降りた。

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