第一章③ わかってるけど、息子<孫はツライ…
さて、そんな我が家だが、家族の問題は何もなかった。
いたって普通の仲良し家族。普段は多忙ながらも、夕方以降は家族との時間を大切にし、連休では子供たちの知見が広がるよう旅行に出かけた。
春光祭の時期は一家で帰省し、年老いた母さんを労うのが例年のイベントとなっている。
そんなわけで、今年も春が近づくと、俺は一週間の休暇を取った。墓参りや旧友との顔合わせもあるので、いつもこの時期には長い休暇を取ることにしている。もちろん帰省にはルルも一緒だ。
この時期のルルはいつもソワソワしている。ケンジャに会えるのも嬉しいが、一番はルル自身の寿命だろう。
眷属でありながらケンジャのそばを離れているので、今のルルは普通のネコ同様に加齢している。魔獣だが一般のネコと大差ないため、ルルはこの十五年ですっかり老け込んでしまった。
ケンジャのそばにいれば力をもらえるから、王都にいる分だけルルは延命できる。ルルが約三百年生き続けているのも、ケンジャのそばにいればこそなのだ。
まあ、ルル本人が俺と一緒にいることを選んだから仕方ないんだけど、そろそろケンジャのいる王都にルルを帰さないとマズイと思っていたところだ。
こんな事情を抱えながら、俺たちは一年ぶりに王都へ旅立った。
× × ×
王都へは、まず船で港町クルスへ向かう。
俺の会社の船を使うので、チケットを買う必要はない。乗ってきた船はそのまま商談に向かうので、俺ら一家の足にしても何ら問題ないのだ。
クルスに着いてからは陸路で王都を目指す。
馬車を手配している間、俺らはエンジの兄夫妻が経営する酒場で時間をつぶした。懐かしい顔ぶれに挨拶しつつ、ポートからの土産である魔法薬を渡す。
俺が十五年前に開拓した魔法薬のニーズは今も衰えていない。雑談しながら、クルスでは今どんな病気が流行しているとか、魔法薬のニーズが聞けた。俺は馬車を手配した従業員にエンジからのニーズを伝えて、船へ帰した。
旧交を深めつつ商談もできて、本当にいい時間が過ごせた。毎年別れ際、「次は仕事抜きで来いよ!」とエンジに注意されるまでがワンセットである。
港町から王都までは、馬車で約一日。
サアナが誘拐されたあの森を通るので、もし同日中に到着できない時は、クルスで一泊してから馬車に乗る。だが俺が奴隷商人を倒して以来、森の警護は強化されたらしく、猟銃を持った自警団を時折森の中で見かけた。
幸い、今年は午前の早い時間にクルスへ到着したので、当日中に王都へ向かうことができた。
俺が住んでいた時の王都は、遠目からでもよく見えた。当たり前だ、野原のど真ん中に高い城壁があるんだから。どうしたって目につく。そんな街全体を取り囲んだ高い城壁も、今は存在しない。綿毛となって飛んで行ったからな。
今の王都は日当たり抜群。俺が住んでいた頃より、何倍も活気にあふれていた。
ちなみに王侯貴族がすべて魔王に殺されたので、今は共和制になっている。そのため王都ではなく、今は首都アーサーニュと呼ばれている。ちなみに、国の英雄アーサーにちなんだ名前だ。
俺の生家前で、俺たちは馬車を降りた。その音を聞きつけて、母さんが部屋から飛び出してきた。
「お帰り、アズール!」
そういって、母さんは長男を抱きしめた。
ああ、わかってる。わかってるさ。孫の方が可愛いって。それにジュニアは美しい顔をしているしな。だがせめて二番目には実子をハグしてくれ。ああ、いやまあ、次男、三男と移っていくのも仕方ないよな。でも孫を抱き終えたら、次は俺だろう。なぜ嫁を抱く。で、全員ハグし終えてから、思い出したかのように俺に抱きつくんじゃない。まったく、まるで俺がいい年してヤキモチを焼いてるみたいじゃないか……。