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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第3部】おわりの町ですべてが終わる
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第一章② ジュニアの生態

 まず先に断っておくが、俺は子供に「アズール」と名付けるつもりはなかった。血筋は残したいが、名前自体は残さなくていいと思っている。

 それにアズールの名前は重すぎるから、一度リセットの意味を込めて、別の名前にしようと思っていた。それこそアーサーにしたかったさ。


 だが妻のサアナは絶対に認めない。「その名前にしなきゃいけない気がする」といって、強引にアズールと付けてしまった。本当はアズール二十三世なんだけど、そこまで説明するのも面倒だし、日常生活で呼ぶこともない。だから俺ら家族は長男をジュニアと呼んでいた。


 そんなジュニアだが、多方面であり得ない存在なんだ。


 まず成人した今も働かない。この世界では、成人したらみんな自分の仕事を持ち、人生をかけて働く。仕事を変えることもあるが、みな自分の道を行くことになっているのだ。

 だがジュニアは自分の仕事を持たず、毎日ふらふらしていた。時にはクレディの温室の世話をし、時には祖父母に代わって下宿部屋を掃除し。金が必要な時は俺の仕事を手伝ったりして、日銭を稼いでいた。


 基本的には「困っている人がいたら助ける」スタンスで、頼まれれば何でもやる。だが頼まれないと何もせず、日がな窓辺で楽器を弾いていた。どんな楽器も弾けるし一度聞いた曲はすぐ演奏できるほどの才能を持っているのに、演奏家にならない。綺麗な旋律を奏でるのに、作曲家にもならない。歌もこの上なく上手なのに、歌手になる気もないようだ。


 ジュニアの奴、本当は何でもできるのになぜ何もしないのか。俺にはさっぱりわからない。ちなみに親の贔屓目で言ってるんじゃない。ジュニアは五歳の時、町の歌唱コンクールで大人を押しのけて優勝している。というか、どんなコンクールでも、出場すれば優勝をかっさらってしまうから、どこも出禁になっているんだ。それくらいアイツには実力がある。ちなみに楽器だけの話じゃない。剣術も勉強も普通以上に何でもできる。むしろ周りから恨みを買わないよう、わざと力を抜いているほどだった。


 俺自身、このままじゃいけないと思って、一度ジュニアに尋ねたことがある。「お前はこれからどうするつもりなんだ?」って。

 そうしたらアイツ、真剣な顔でこう答えた。「僕がすべきことをするだけだよ」ってね。しかも「でも今はまだその時じゃないから、見守っててほしいな」って。

 それから俺、何も言えなくなっちまったよ。悲しくなったっていうか、注意する気力も削がれてね。



 なんというかジュニアには、独特な雰囲気がある。俺自身、どう説明したらいいかわからないんだけど、なんだか浮世離れした感じだ。


 そもそもジュニアの顔がもう、浮世離れしている。飛びぬけて美しいんだ。普通、子供って、目が父親似とか口元が母親似とか、パーツごとに両親の特徴が出ると思う。しかしジュニアはまったく違う。俺とサアナの両方の雰囲気を引き継ぎつつ、どちらにも似ていないんだ。


 例えるなら、俺とサアナの細胞をすべてバラバラにし、もっともよい配合で俺らを調合して生まれたのがジュニアって感じ。

 俺の欠点とサアナの欠点が混ざり合ったことでプラスとなり、美しい調和のとれた顔になっている。もちろん兄弟全員、顔は似ているんだけど、ジュニアだけは別格で美しい顔立ちをしていた。失礼だけど、妹のミーナよりも。

 雰囲気と顔立ちのせいもあってか、みんなジュニアに優しい。そしてついつい甘やかしてしまうんだ。



 あと、ジュニアの変わり者エピソードとして「独り言」も付け加えなきゃいけない。

 相槌とか質問とか、絶対に独り言で言わないようなものばかりなんだ。まるで見えない何かと会話している感じ。一人で音楽を奏でている時も、まるで友達と語らっているように微笑んでいる。


 ジュニアはルルともしょっちゅうニャーニャー会話しているから、ある日俺はルルに聞いてみた。適当にネコ語を言ってるだけかと思ったら、ルル曰く、ちゃんとネコの言葉で会話しているとのこと。俺がジュニアの心配をしていると知るや、「あれほどしっかりした子はいないぞ」とルルに叱られた。


 こんな好き放題しているジュニアだけど、人からの評判は本当にいいんだ。それに働く時はしっかりと働くから、俺も黙認せざるを得なかった。まあ、交易はアーサーが、下宿をミーナが継ぐから、長男が遊んでいても家業に問題ないんだけど。むしろ弟妹たちは浮世離れした兄を慕って、ジュニアが好きにできるようアシストしていた。

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