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「今日から、私はなにをしたらいいの?」
朝食を終え、鏡台の前に座り、カミラに後ろの髪を直してもらいながらアカリは聞いた。
「本日はひとまず、イーサン様が城内を案内してくださるそうですわ。」
「イーサンさんが?でも、隊長って言ってたよ。忙しいんじゃないの?」
「神子様の護衛も含まれてますので」
護衛。その言葉にアカリは目を丸くした。
「お城の中だから安全なんじゃないの?」
そう言うアカリに、カミラはにっこり笑った。
「万が一の事がございますから」
「万が一」
「えぇ、万が一ですわ」
生活圏の宮殿内で万が一を心配をするなんて、日本では考えられないことにアカリは驚いた。
しかし思い直せば、現代の日本では安全でも、授業で習う日本を含めた世界の歴史では、命のやり取りがたくさん起こっていた。きっとアカリが知らないだけで現代の世界でも。
(大変な世界に来ちゃったなぁ。)
アカリは頬を掻いた。
「ボウズ、準備できたかぁ?」
「え!」
驚いて振り返ると、ドアのノックと共にイーサンが部屋に入ってきた。
「まぁ!イーサン様!了承もなく入室するなんて!神子様に無礼ですわよ!」
カミラも目を見開いて、イーサンに詰め寄った。
「っと。すまねぇ。つい癖で」
「癖で、と言うことは。・・・ーーまさか!殿下にも行ってますのね!イーサン様、わたくし常々、貴方に申したいと思っていたことがありますのよ!イーサン様はそもそもーー」
「悪かった!悪かったって。気をつけるから、な?許してくれカミラ。ボウズもすまなかったな」
声を荒げるカミラに、耳に指で栓をするイーサンを見てアカリはクスクスと笑った。
「大丈夫です。びっくりしただけだから」
カミラは言い足らないらしく頬を膨らませながら、まだぷりぷりと怒っている。
「イーサンさん、今日はお忙しい中、お城を案内をしてくださるそうで。よろしくお願いします」
そう頭を下げるアカリを見て、イーサンは少し驚いた。
昨日の様子ではもっと死にそうな様子だったからだ。
今日もきっと暗く沈んでいるのだろうと思っていた。
部屋の中に閉じ込めるよりも、気分転換になるようにとアルバートに言われ、アカリの部屋に足を運んだが。
(大丈夫そうか?)
イーサンは、いつもの癖でぽりぽりと頭を掻いた。
「そいじゃ、行くかぁ」
「はい!」
「行ってらっしゃいませ」
送り出すカミラを背にして、アカリは部屋を出た。
部屋を出ると、昨日もイーサンの隣にいた細目の男、キースが立っていた。
「おはようございます神子様」
「おはようございます。キースさん」
「早速覚えていただけて光栄ですねぇ」
「昨日は、ご挨拶出来なくてすみません。改めまして、お世話になります。よろしくお願いします」
頭を下げるアカリにキースは細い目を更に細めた。
「こちらこそ、昨日ちゃんとご挨拶してなくてすみません。キース・ブラウンと申します。よろしくお願いします」
キースはニヤニヤとした笑顔をアカリに向けた。
「すみません。うちの隊長、ちょっと礼儀を知らなくて。止める間もなく入っていくから、こっちもびっくりしちゃって」
「悪かったって」
「カミラもプンプンでした」
「でしょうねぇ。次、失礼な事があったら遠慮なく言ってくださいねー。止められそうなら止るんで」
「止めると言ってくれ」
「厳しいでしょうねぇ」
アカリは二人の気心知れた軽口に、笑いを抑えられなかった。
「あはは!そしたら、またカミラに怒ってもらいます!」
「言いますねぇ」
「それだけは勘弁してくれ」
イーサンはその大きな体を縮こませ項垂れた。
アカリとキースは声を上げて笑った。
イーサンが教えてくれる後ろを、アカリは雛のようについていく。
「こっから上の階は、王家の方専用で立ち入り禁止だ。あそこに見える塔は、いまは使われてねぇな。危ねぇからあんま近づくなよ。あそこを角を曲がると図書室、それからそっちに行くと食堂で、この先を行くと厨房になる。つまみ食いにいくなよ?めちゃくちゃどやされるから。あっちの広い部屋がボールルーム。そんでーーー」
「待ってください。イーサンさん。私、目が回って」
「隊長って本当に雑ですよねぇ」
案内してもらったがいいが、全然覚えられそうにない。なんせ部屋の数が多すぎる。
同じような廊下、同じような扉。いま、自分が何階にいるかも怪しくなってきた。
アカリは次々と紹介される部屋の数の多さに目を回した。
「そうか?新人に教えるときもこんなもんだろ?」
「隊の新人と神子様を一緒にしないでください。そうだ。庭をまだ案内してませんから、休憩も兼ねて案内して差し上げればどうですか?神子様、今の時期なら花も咲いてますし、綺麗ですよ」
「それは、是非ともお願いします。」
キースの心配りにアカリは感謝した。
丁度、外の空気を吸いたいと思っていた。
「じゃあ、茶でも届けさせるか」
イーサンは近くを通り過ぎる使用人を呼び止めて、庭にお茶と軽い茶菓子の用意を頼んだ。